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「39.断定」へ
補説§39
§39.1 ハズ
§39.1 ハズの諸説紹介
「はずだ・にちがいない」について、いくつかの分析を紹介します。
1 三枝・中西(2003)
p.20
「にちがいない」「にきまっている」は、直感をもとにした推測を表す。
「はずだ」「にちがいない」は、ともに推測を表すが、「はずだ」は確かな根拠を
もとにした推測で、「にちがいない」は直感をもとにした推測である。
確かな根拠とは、計算・論理的思考の結果、過去の経験などである。
練習13
1.この地域は、条例によって20メートル以上の建物は建てられない〜
2.学生:機能はエアコンの音がうるさくて勉強できませんでした。
管理人:今日修理してもらったから、もう静か〜ですよ。
3.あっ、空が曇ってきたな。夕立が来る〜よ。
4.あの男が犯人〜。証拠はないが、何となくそんな感じがするんだ。
2 森山・安達(1996)
p.31
あそこで先生と話している女の子が彼の妹に違いない。
母は若いころ苦労したに違いない。
14-1「に違いない」は、確かなことはわからないが、そうだと決めつけるという意味
である。
もうこんな時間か。高山さんは約束を忘れてしまったに違いない。
彼はよく勉強したに違いない。今日の発表は面白かった。
14-2「に違いない」は、自分の考えを整理して述べるというような使い方がふつうで
ある。そこで、質問に対する応答の文では使いにくい。
「田中君は今日来ますか?」「×はい、来るに違いありません」
cf.「はい、くるかもしれません」「はい、来るはずです」
(以下略)
p.36
16-1「はずだ」は、論理的な推理によって導き出した結論を表す。
彼はさっきまでここにいた。まだそんなに遠くには行っていないはずだ。ちょ
っと遅れるかもしれないと言っておいたから、まだ待ってくれているはずです。
6-2 自分が確かだと思っていたことに反する情報が得られたときにしばしば使われる。
「急いで。先生はもういらっしゃっているよ」「えっ。約束は1時のはずだけど」
おかしいなあ。この喫茶店にいるはずなんですけどね。
16-3 相手が知っているべきことを忘れている場合に、それを思い出させる用法がある。
当然覚えているべきだということを強調することになる。
昨日、君には、集合時間を言っておいたはずですよ。
(以下略)
3 グループ・ジャマシイ(1998)
p.220
ちがいない
(1)あんなすばらしい車に乗っているのだから、あの人は金持ちにちがいない。
(6)A:この足跡は?
B:あの男のものだ。犯人はあいつに違いない。
何らかの根拠に基づいて、話し手が強く確信していることを表す。「だろう」に比
べて話し手がもつ確信の度合い、思いこみの度合いが高い。書きことばではよく使う
が、日常会話では、大げさに響く傾向があり、(6)のような特殊な状況以外では、「き
っと...と思います」などの表現を用いる。
p.500
はずだ
話し手がなんらかの根拠に基づいて、当然そうであると考えたことを述べる場合に
用いる。判断の根拠は論理的に筋道の追えるものでなければならない。従って、次の
ような場合には用いることができない。
(誤)めがねが見つからない。またどこかに置き忘れたはずだ。
(正)めがねが見つからない。またどこかに置き忘れたんだ。
4 庵他(2000)
p.126
「はずだ」は自分の考えで確信していることがらを表す表現です。
部屋のかぎはおそらく田中君が持っているはずだ。
よく似た意味を表す表現に「にちがいない」があります。
森田さんは家にいるにちがいありません。
彼女はきっと留守にちがいない。
p.127
「はずだ」は論理的に考えた結果得られた確信を表すのが基本です。
朝子は弁護士だから、法律に詳しいはずだ。
そのため、(8)のように、思考の結果の確信と現実とが食い違う場合にも用いること
ができますし、(9)のように、以前から知っていた現実のことがらの理由や背景を知っ
て論理的に納得したという場合にも用いられます。
(8)朝子は弁護士だから法律に詳しいはずなのに、憲法さえろくに知らない。
(9)A:夕子さんは弁護士なんだって。
B:そう、道理で法律に詳しいはずだね。
このような場合「にちがいない」は使えません。
一方、「にちがいない」は直感的な確信も表すことができますが、「はずだ」はで
きません。
彼を一目見て親切な人にちがいないと思った。
×彼を一目見て親切な人のはずだと思った。
以上のような性格から「にちがいない」は主観的な思いこみというニュアンスを帯
びやすいので、客観的な述べ方が必要な場合は「はずだ」のほうが適切です。
(論説文)以上のデータから考えると、この町の人口は今後も増え続ける
{○はずである/?にちがいない}。
5 日本語記述文法研究会(2003)
p.158
「にちがいない」は、断定はできないが、その判断が間違いのないものとして確信
されるという意味を表す。
・あの人は、いい背広を着ていい車に乗っている。きっと金持ちにちがいない。
・最近、山本はとても機嫌がいい。何かいいことがあったにちがいない。
これらの例のように、何らかの根拠に基づいて推論を組み立てる場合が多い。
名詞に接続する「にちがいない」には、事実を再確認する用法がある。
・さっき確認しましたが、この件の責任者はその人にちがいありません。
・確かに、あの人は優秀な学者にはちがいない。だが、誠実な人間であるとは言
えない。
これらは、確信的な判断を表すものではなく、すでに知られている事実について、
「そのことに間違いはない」と追認する用法である。
(以下略)
推論を経ていない場合や直観的な判断を述べるような場合には、「にちがいない」
より「にきまっている」を用いるのが自然である。
・宝くじを買ったって、どうせ当たらない{?にちがいない/にきまっている}。
p.161
「はずだ」は、基本的に、何らかの根拠によって、話し手がその事柄の成立・存在
を当然視しているということを表す。次の例のような、論理的推論を表す用法が、認
識のモダリティとしては基本的である。
・山本はぼくより2つ下だから、今年で30になるはずだ。
・佐藤はタバコは吸わないから、禁煙席にいるはずだ。
また、次のような例は、記憶の中の事柄を再確認することによって、その事柄を当
然視する用法である。
・たしか、田中さんのところの赤ちゃんは、女の子のはずです。
「はずだ」の文は、「本来はこうである」ということに加えて、「現実はそうでな
い」ということを意味することがある。過去形をとったり、逆接表現を伴ったりした
場合には、そうした意味になりやすい。
・雨が降らなければ、今日は決勝戦が行われるはずでした。
・このボタンを押せば録画できるはずなのだが。
(以下略)
論理的推論を表す用法でのみ、「にちがいない」と置き換えが可能になる。
・その荷物は先週に送ったのだから、もう着いている{はずだ/にちがいない}。
ただし、推論の帰結が話し手にとって自明のことである場合には、置き換えにくくな
る。
・山本はぼくより2つ下だから、今年で30になる{はずだ/*にちがいない}。
6 吉川編(2003)『形式名詞がこれでわかる』ひつじ書房
「はず」まとめ p.170
「はず」は予定・道理・当然の意を含んだ確信の強い推量を表す。
1 現在形+はずだ
◎ある条件の下では、そういう状態が出現する、と話し手が判断していることを表す。
変化動詞 カルテを患者が医師に提示できるようになれば、診断も正確にな
るはずだ。
可能動詞 日本語教師なら、答えられるはずだ。
存在を表す動詞 この種の機械にはマニュアルがあるはずだが。
Vたい 選手は体がだめになるまで、現役を続けたいはずだ。
◎《納得》前もって頭の中で分析的に考えて仮定したことが実際に目で見た現実によ
って裏付けられ、真相が納得できたということを表す。
どおりで寒いはずだよ。ほら見て、外には雪が降っている。
そりゃ負けるはずだ。相手は元五輪選手だったんだって。
2 現在形+はずだった
◎予定、計画、約束は存在したが、自らの意志でコントロールできない障害により、
果たされなかった、または大幅に狂ってしまったことを表す。
約束ではもっと早く訪問するはずだったのだが、渋滞で遅れてしまった。
3 過去形+はずだ
◎過去のこと、完了したことについての確信の強い推量を表す。
父の少ない給料から月々のローンを払うのは楽ではなかったはずだ。
◎反事実仮想の帰結を強調する。
猛暑で十万羽の鶏が死んだ。夕方温度が下がれば、もう少し助かったはずだ。
4 過去形+はずだった
◎過去に下した判断と現状との間に生じている食い違いを強調する。
みんなでずいぶん写真を写したはずだった。しかし、今になると、もっと
写しておけばよかったなどと、思ってしまう。
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