主要目次へ 庭三郎の現代日本語文法概説:04dousihosetu

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[補説§4]

§4.1 寺村(1982)の文型表  §4.2 森山(1988)の文型  §4.3 村木新次郎の叙述素  §4.4 村木新次郎の「格」から  §4.5 IPAL動詞辞書の文型  §4.6 『文法ハンドブック』の動詞文型  §4.7 『日本語教育事典』動詞文型  §4.8 基本動詞のリスト  §4.9 国語辞典の文型表示  §4.10 『文法ハンドブック』『日本語教育事典』などから自他の対応表  §4.11 福島論文 ニ格とテイル  §4.12 『日本語基本動詞辞典』  §4.13 理想の動詞用法辞典とは  §4.14 動詞文型調査  §4.15 『現代日本語文法2 格と構文 ヴォイス』から動詞文型

§4.1 寺村秀夫(1982)の文型表

 参考資料として寺村(1982)の文型を抜き書きしてみました。  動詞・形容詞・名詞述語の本格的な文型表として最初のものと言っていいでしょう。 文型表の前に、寺村の議論を少し。
寺村秀夫『日本語のシンタクスと意味機
(1982)くろしお出版  さて、これから日本語の述語を、それがどういう種類の補語を必要とし、それぞれの 補語がどういう格助詞をとるかという視点から分類していくわけであるが、そのこと は、それらの補語が、述語の下位分類にとって意味のあるような種類のものでなければ ならないということを意味している。たとえば「いつ」を現わす「名詞(+助詞)」も 補語ではあるが、「(時ガ)経ツ」のような、かなり特殊なもの以外には、時を表わす 補語をとるかとらないかによって述語を分類することは、あまり意味がないと思われ る。また、「何々ガ」という形の、いわゆる主格の名詞句も、ほとんどすべての述語が 要求するものであろうから、やはり下位分類の助けにはならない。  一般に、具体的なコトを組み立てるさいの、述語と補語の結びつき方には、その強さ に差異がある。述語が動作や変化を表わす動詞である場合には、その動作や変化の主体 を表わす補語がなければ、それは具体的なことを表わすものにならない。それが、何か 他のものに働きかける動作(ナグル、コワスなど)を表わす場合には、その働きかけの 対象を表す補語がなければならない。これと比べると、たとえば何か動作をするときに 用いた道具とか、場所とか、時とか、原因とかを表わす補語は、それがなくてもそのコ トの描写が不完全だという感じはしないという意味で、述語との結びつきは、先の主体 や対象の場合より弱いといえるだろう。  状況についての知識による助けということが全くない場合に限って考えるのである が、あるコトの表現において、言い換えればある述語にとって、それがなければそのコ トの描写が不完全であると感じられるような補語を、「必須補語」(primary complement)、 そうでないものを「副次補語」(secondary complement)と呼ぶことにする。  このように、述語にとって、それとかかわる名詞の格の重要度に程度の差があるとい うことは、これまでも多くの文法家によって指摘されてきたことである。  (中略)  ある補語が必須か否かをためす最も簡単な方法は、反問誘発の可能性を考えてみるこ とである。もちろん、場面による助けがないことを想定して、である。たとえば、   (8) a. 橋ヲコワシタ    −−誰ガ?  b. 子ドモガコワシタ −−何ヲ? c. コワシタ −−誰ガ? 何ヲ?  人はいくらでもコトに対しての情報をくわしく求めることはできるけれども、上のよ うに、どうしてもその要素がなければ具体的なコトを表わしたことにならないようなも のを、必須補語とするわけである。そして、どういう種類の補語を、どういう形で、必 須補語としてとるか、というのが、述語の、したがってコトの分類のきめ手となる。  しかし、この反問誘発のテスト、および、(主格の場合を別として)下位分類に意味 のある補語かどうかのテストは、ときに微妙である。たとえば、「結婚スル」という動 詞は、後に見るように、「(誰)ト」という補語を必須補語としてとり、そのことによっ て「話シ合ウ、タタカウ」などと同じく「相互動作」を表す動的述語の一つとするので あるが、   (9) 兄ハ5年前ニ結婚シテ、イマ九州ニ住ンデイル のような文が   (10) 誰ト結婚シタ? という反問を必ず誘発するとは限らないであろう。かといって、「(誰)ト結婚スル」の 「(誰)ト」は、後に述べるような理由で、「副次補語」の「(誰)ト」とは区別しなけれ ばならない。「(ドコ)ヲ歩ク」の、「通りみち」を表わす「(ドコ)ヲ」も同様であろう。  そんなに度々あるわけではないが、すべてを「必須」と「副次」に二分することは無 理な場合がでてくる。そこで、上のように、必ずしも反問を誘発するとは言いがたい が、述語の下位分類にとっての意味が大きいと思われるようなものを、「準必須補語」 と呼ぶことにする。                            (p.81-84)  以下の分類では、日本語の文の、述語の品詞による三大分類、「動詞文」「形容詞 文」「名詞文」に内容的にほぼ対応する「動的事象の描写」「性状規定」「判断措定」 (佐久間鼎の分類)を大きなグループとし、「憎ム、憎イ」など感情の表現と、「アル、 ナイ」などの存在の表現を、動的事象の描写と、性状規定の中間にあるものと位置づけ、 「コトを含むコト」を加えて六つの大きい類型を立て、それぞれをさらに細かく分けて いくやり方をとった。分類の手がかりは、どういう必須補語、準必須補語をとるか、と いうことである。                            (p.84-85)  では、寺村の動詞文型をかなり省略した形で引用します。ぜひ、原文の詳しい説明を 読んでみてください。
寺村秀夫『日本語のシンタクスと意味機(1982)から
   〔1〕物理的働きかけ      殺す、殴る、誘う、引く、壊す、落とす、割る、切る、食べる、飲む、読む      仕手→Xガ      受け手→Yを   〔2〕ある対象を目ざしての感覚・感情の動き      見る、聞く、感じる、呼ぶ、ほめる、愛する、嫌う、尊敬する      仕手→Xガ      目当て→Yヲ  〔3〕創る行為      作る、(詩を)書く、(穴を)掘る、(写真を)写す、(家を)建てる      仕手→Xガ      作品(動作の結果出現するもの)→Yヲ  〔4〕対面、あるいは対象に対する態度      A.(「働きかけ」性の強いもの) 賛成する、味方する、挑戦する、       反対する、かみつく、飛びつく、つかみかかる、ほえる、ねだる      B.恋する、ほれる、あこがれる、頼る、言う、ささやく、話しかける、       問いかける      C.会う、当たる、ぶつかる、慣れる、向かう、さわる、似る      仕手→Xガ      相手→Yニ  〔5〕相互動作      ぶつかる、けんかする、争う、戦う、戦争する      結婚する、見合いする、離婚する、心中する、姦通する      愛し合う、憎み合う  別れる、手を切る      仕手→Xガ      片方→Yト   〔6〕移動−1「出る」動き      出る、卒業する、出発する、離れる、おりる、飛び出す、去る      仕手→Xガ      出どころ→Yヲ/Yカラ  〔7〕移動−2「通る」動き      A.通る、過ぎる、経る、渡る、越す      B.歩く、走る、かける、はう、進む、とぶ      仕手→Xガ      通りみち→Yヲ      出どころ→Vカラ      到達点(あるいは目的地)→Wへ/Wニ  〔8〕移動−3「入る、着く;泊まる」類       A.入る、乗る、届く、着く、上がる、降りる、飛び込む、移る、       向かう、伝わる、感染する、進む、退く       B.集まる、近づく、沈む、広まる、広がる、落ち着く、はやる      C.泊まる、住む、浮く、立つ、座る、寝る、倒れる、響く、向く、       横になる、しみる、傾く、残る、並ぶ      仕手→Xガ      到達点→Yニ      出どころ→Zカラ  (Cは共起しない)  〔9〕行く、来る、帰る、戻る      仕手→Xガ      到達点(目的地)→Yヘ/Yニ  〔10〕変化「なる」類      A.なる、変わる、化ける、扮する      B.別れる、伸びる、縮む、増える、減る、割れる、上がる、落ちる、        染まる、固まる、改まる、発展する、生まれ変わる、決まる      仕手→Xガ      変化の結果の状態→Yニ      出どころ(元の状態)→Zカラ  〔11〕働きかけと移動の複合「入れる」類       A.入れる、乗せる、届ける、着ける、上げる、落とす、投げ込む、       書き込む、移す、向ける、閉じこめる       伝える、置く、敷く、しまう、近づける      B.集める、沈める、広める、広げる、落ち着ける、捨てる      C.泊める、浮かべる、立てる、寝かす、倒す、傾ける、添える、        残す、並べる  比べる、比較する      仕手→Xガ      受け手→Yヲ      到達点→Zニ      出どころ→Wカラ (Aのみ)  〔12〕働きかけと変化の複合「変える」類      A.する、変える、改める、決める、選ぶ      B.増やす、減らす、伸ばす、縮める、上げる、下げる、まとめる       暖める、冷やす、熱する   塗る、割る、裂く      仕手→Xガ      受け手→Yヲ      変化の結果の状態→Zニ      出どころ(元の状態)→Wカラ  〔13〕授受の表現(1)「与える」類      与える、教える、見せる、売る、貸す、紹介する、あげる、くれる      仕手→Xガ      相手→Yニ      受け手→Zヲ  〔14〕授受の表現(2)「受ける」類      受ける、受け取る、教わる、習う、買う、借りる、預かる、もらう      仕手→Xガ      相手→Yニ/Yカラ      受け手→Zヲ  〔15〕「命じる」類      命令する、要求する、頼む、強制する、勧める、説明・感謝する      仕手→Xガ      相手→Yニ      内容 名詞→Zヲ         コト→〔コト〕コトヲ            〔コト(要求の形)〕ト    〔16〕一時的な気の動き      驚く、おびえる、飛び上がる、安心する、怒る、酔う、失望する      感情主→Xガ      誘因→Yニ  〔17〕能動的な心の動き、積極的感情の発動      愛する、憎む、喜ぶ、楽しむ、恥じる  恋する、嫌う  望む      感情主→Xガ      対象(=目当て)→Yヲ  〔18〕感情の直接的表出      怖い、惜しい、にくい、うれしい、苦しい、好きだ、いやだ       ほしい   困る、思う      感情主→Xガ(まれにXニ)      対象→Yガ  〔19〕感情的品定め      恐ろしい、うらやましい、悲しい、哀れだ、いやらしい      主体→Xガ     (品定めの)基準(「〜にとって」)→Yニ  〔20〕出来事の発生      ある、起こる、発生する      出来事→Xガ      場所→Yデ  〔21〕物理的存在(あるとき、あるものがある空間を占めて存在する)      ある、ない、いる、多い、少ない      存在するもの→Xガ      存在の場所、位置→Yニ  〔22〕所有、所属的存在      ある、いる、多い、少ない      存在するもの→Xガ      Xを所有する人、あるいはXが所属する人→Yニ  〔23〕部分集合、または種類の存在      ある、いる、多い、少ない      主体(ある部分集合)→Xガ      判断の及ぶ範囲(Xを含む集合)→Yノ中ニ  〔24〕「何かに対する」性状      A.賛成だ、反対だ、満足だ、ふさわしい、ぴったりだ      B.似ている、並行している、共通している      C.同じだ、異なる、違う、逆だ      D.親切だ、やさしい、甘い、厳しい、弱い、強い           主体→Xガ      相手→Yニ  (A類 D類)      片方→Yト  (C類)  〔25〕相対的性状      大きい、長い、軽い、新しい  難しい、よい、できる、可能だ      できる、わかる      主体→Xガ     (相対的品定めの)基準→Yニ/Yニトッテ   〔26〕絶対的性状      丸い、細長い、四角い  ざらざらしている      赤い、白い、黒い   簡単だ、複雑だ      病気だ、元気だ、丈夫だ   本当だ、うそだ           主体→Xガ  〔27〕判断措定の対象になるコト      Yダ/デス/デアル/デアリマス/デゴザイマス      判断の主辞→Xガ  〔28〕感覚作用      見る、見つける  聞く、耳にする  匂う、感じる      主体→Xガ      対象 名詞→Yヲ         現象→〔コト〕ノヲ  〔29〕思考作用      思う、考える、信じる、疑う  思い出す、恥じる      主体→Xガ      内容 名詞→Yヲ         コト→〔コト〕コトヲ/〔コト〕ノヲ/〔・・・・〕ト  〔30〕発話行為      言う、話す、教える、叫ぶ、訪ねる、訊く、答える、命じる、頼む      主体→Xガ      内容→〔・・・・〕ト   (一項述語とゼロ項述語は省略します) ◇まとめ  上の文型の1から15までをもう少し簡略化した形で書き直したものにしてから、 それらの関係を考えてみます。  動的事象   働きかけ 1・2・3 Yヲ   読む・見る・作る 対面    4 Yニ 賛成する  相互動作   5 Yト       別れる    移動 6 Yヲ/カラ    出る   7 Yヲ(VカラWヘ/ニ) 通る  8 Yニ(Zカラ)    入る 変化 10 Yニ(Zカラ)    なる 複合(働きかけと移動/変化) 11 Yヲ(WカラZニ)   入れる 12 Yヲ(WカラZニ)   変える 働きかけ・対面の複合 13 YニZヲ       見せる 14 Yニ/カラ Zヲ    習う  15 YニZヲ(コトヲ)  頼む ・動的事象の文型相互の関係                   働きかけ                      1・2・3 Yヲ    移動 6 Yヲ/カラ       7 Yヲ(VカラWヘ/ニ)      8 Yニ(Zカラ)    変化      複合(働きかけと移動/変化)      10 Yニ(Zカラ)    11 Yヲ(WカラZニ) ←8    12 Yヲ(WカラZニ) ←10 対面   働きかけ・対面の複合 4 Yニ   13 YニZヲ   14 Yニ/カラ Zヲ    15 YニZヲ(コトヲ)          相互動作      5 Yト ▽寺村の記号「X・Y・V・W」の使い方が、上のようにまとめるとかえってわかりにくく なってしまいますが、元の文型の説明とゆっくり対照すると分かると思います。  働きかけと移動・変化が交差することや、働きかけと対面が交差することで、新しい文型が できることが分かります。  しかし、そうすると、対面と働きかけ、移動の中の「出どころ」と働きかけの交差した所に ある文型が、上の表にないことに気づきます。  ◇上の表に落ちていると思われるもの   人が人からものを    取る、盗む   人がトコロからものを  取る、はずす、はがす   人がものをものと    まぜる、間違える、並べる  これらも、上の表に加えられるべき文型だと思います。 (つづく) [補説§4]の最初へ 主要目次へ

§4.2 森山卓郎(1988)の文型

次は森山卓郎の研究から。 森山卓郎『日本語動詞述語文の研究』(1988)  4 無格型:自然現象の動き   停電する、春めく     私の部屋が停電した/私の部屋で停電した 5 ガ格型:単独動作動詞句・単独自然現象動詞句 5-1 無変化類(自他対応のないもの)     生きる、躍る、泳ぐ、歩く、悩む、楽しむ、黙る       同族目的語、動きの量を表す名詞     晴れる、(時が)たつ、暮れる、(春が)来る、生まれる、ぼける       空が晴れる(動きが起こる場所)       天気が晴れる(動きの概念の上位概念的な名詞) 5-2 変化動詞句:自他対応の自動詞タイプ     壊れる、膨れる、濡れる、乾く、溶ける、伸びる、曲がる  5-3 部分の主体     私は足が痛む 6[ガ、ニ]型 6-2 存在を表すもの:[ガ、ニ]型、[ガ、場所名詞デ]型 6-2-1 存在動詞:[ガ、ニ]型     ある、いる、存在する、実在する 6-2-2 様態存在動詞句:[ガ、ニ/デ(ニオイテ)]型     浮かぶ、沈む、そびえる、隠れる、泊まる 6-3 ヘ格に置換されるもの:移動的なもの:[ガ、ニ/ヘ]型 6-3-1 接着動詞句     あたる、埋まる、収まる、こびりつく、ささる、しゃがむ、立ちすくむ、     突き当たる、泊まる、乗る、乗り込む、はさまる、入る、ひっかかる、     へばりつく、たれる    (に対して)     からみつく、すがりつく、もたれかかる、(ぶつかる) 6-3-2 出現動詞句     現れる、生ずる、噴き出す、もえたつ、わき上がる 6-4 ニタイシテに置換されるもの:[ガ、ニ/ニタイシテ]型 6-4-1 態度の動詞句     ほれる、憧れる、飽きる、お辞儀する、干渉する、恐縮する、協力する、     逆らう、そむく、たてつく、立ち向かう、抵抗する、仕える、なつく、     脅える、拍手する、作用する、迷惑をかける、いたずらする、はらをたてる 6-5 デ等に置換されるもの:原因・変化動詞[ガ、ニ/ニヨッテ/デ]型     驚く、呆れる、悩む、困る、苦しむ、泣く、笑う、酔う 6-6 同一的なト格に置換されるもの:主体改変型変化動詞句:[ガ、ニ/ト]型     改める、変える、化す、なる、交替する 6-7 相互的なト格に置換されるもの:[ガ、ニ/ト]型     会う、関わる、別れる、混ざる、(釣り合う) 6-8 ニ格の交替がないもの:関係動詞句     関与する、因る、要る 7 [ガ、カラ]型:出現動詞句・消滅動詞句・出発動詞句・成分の動詞句      生まれる、出る(出現の意味)、できる、発生する、出現する    カラ/ヲ     出る、離れる、去る(行き先が問題にされない場合)、脱出する 8 [ガ、ト]型 8-1 ト格の意味  同一的なト 引用的なト 相互的なト 8-2 [ガ、同一的ト]型:変化の動詞句(・判明動詞句)・扱いの動詞句    ニ格に置換できる     改まる、化す、変わる、なる、変身する、改宗する、交替する    ニ格に置換できない     明らかになる、判明する、わかる    トシテ     扱う 8-3 [ガ、ト(相互)]型:相互動作動詞句     結婚する、離婚する、喧嘩する、仲良くする、しゃべる、話し合う     〜しあう 8-4 [ガ、〜ト(引用)]型 9 [ガ、カラ、ニ]型 9-1 ニ格がヘ格に置換可能:[ガ、カラ、ニ/ヘ]型 9-1-1 起点に重点があるもの:出発動詞句     散る、離れる、出発する    「〜した所/場所」で起点を表す 9-1-2 移動全体が取り上げられるもの:単純移動動詞句    移動することだけを表す     上がる、移動する、動く、移る、下がる、渡る    「〜した所/場所」で終点を表す     集まる、行く、落ちる、来る、進む、近づく、近寄る、参加する、     出掛ける、届く、乗る、入る、向かう、戻る    「〜した所/場所」で経路も表す     歩く、急ぐ、泳ぐ、飛ぶ、走る 9-2 ニ格が同一的なト格に置換可能なもの:主体改変動詞句カラ・ト類     改まる、変わる、なる、変身する、変心する 10 [ガ、引用のト、ニ]型:伝聞・伝達動詞句     言う、怒る(感情の方向がある)、話す、聞かせる、講演する、うそぶく     知らせる、伝える    カラ、ニが置換できる     聞く、教わる、承る 11 [ガ、ヲ、引用のト]型:判断動詞句     思う、考える、感じる、考察する、信じる、判断する、見なす、見る、読む 12 [ガ、ヲ、ニ]型 12-1 [ガ、ヲ、ニ/デ(ニオイテ)]型:発見動詞句 12-2 [ガ、ヲ、ニ/ヘ]型:対象接着・対象姿勢方向動詞句    部屋にリボンを飾る/部屋をリボンで飾る(格の代換)     浴びせる、押し付ける、かける、飾る、くっつける、くくりつける、     据える、接着する、詰める(一杯にする)、足す、掛ける、塗る、巻く    典型的な接着 格の代換なし      当てる、着ける、留める、取り付ける、巻き付ける    ある方向ニ/ヘ     押す、向ける、開ける、(ある方向に)倒す、(姿勢として)寄せる    対象を存在させる ニ/へ     生む、浮かべる、残す、もたらす、設置する 12-3 [ガ、ヲ、ニ/ト(相互的)]型:相互型対象変化動詞句     合わせる、重ねる、つなげる、似せる、交ぜる、組み合わせる     〜合わせる 12-4 [ガ、ニ/ニタイシテ、ヲ]型:適応の動き(ヲ格を含んで働きかけるもの)     使役形が代理する  働かせる    適応、対応を表す     合わす、試みる、試す、調整する、要する    精神的な行為     注意を向ける、興味を持つ、焼き餅を焼く、意義を認める 12-5 [ガ、ヲ、ニ/同一的なト]型:対象改変型動詞句     改める、変える、なおす、する、(もとに)もどす(非移動的) 13 [ガ、ヲ、カラ]型:対象出現動詞句・対象消滅動詞句・対称移動動詞句   ・対象影響動詞句    出す、生む、手繰る、(シ゛ュースを)搾る、採る、分ける、外す、引用する    対称移動、対象消滅的なもの     消す、無くす、間引く、取り出す    生産:作る → 抽出:採る → 買う・盗む → 引く → 消滅 14 [ガ、ヲ、ト(相互的)]型:対象交換動詞・対象競争動詞     一位を争う 競う     交換する、取り引きする、差し引きする、相殺する、置換する、変える、     変換する 15 [ガ、ヲ、カラ、ニ]型 15-1 [ガ、ヲ、カラ、ニ/ヘ]型:対称移動動詞句     出す、(火気を)遠ざける  対象出発的移動    「〜した場所」が終点に     上げる、移動する、動かす、移す、下げる、運ぶ    特に終点に重点     集める、送る、降ろす、落とす、進める、近づける、届ける、流す、     乗せる、戻す、寄せる、渡す    移動が人めあて、ニタイシテに置換可能     与える、加える、向ける 15-2 [ガ、ヲ、カラ、ニ/ト]型:対象改変型変化動詞句     改める、変える、治す、訂正する 16 [ガ、ヲ]型 16-2 ヲ格が経路を表すもの:経路動詞句     越える、過ぎる、通過する、通る、廻る 16-4 対象変化的なもの 16-4-1 対象消滅・対象変質・対象生産動詞句     砕く、壊す、殺す、潰す、無くす、倒す、流す、割る、(皮を)剥ぐ     焦がす、乾かす、磨く、焼く、ゆでる     書く、築く、作成する、建てる、作る、発明する、見付ける 16-4-2 一時的な状態変化     開ける、裏返す、飼う、避ける、捨てる、挟む、曲げる、並べる、延ばす、     持つ、脱ぐ、包む、捕まえる 16-5 単独動作動詞の同族目的用法・量用法     生きる、歌う、踊る、泳ぐ、働く、戦う 16-6 ヲ/ニタイシテ:働きかけの動詞句     あざ笑う、攻撃する、怒る、罵る、(侮辱する、教える、諭す) 16-7 出来事名詞のヲ格    何らかの対象に対する感情を表す動き     愛する、諦める、悼む、恐れる、(故郷を)思う、悲しむ、嫌う、好む、     楽しむ、嘆く、憎む、迷う、喜ぶ    知的動作     窺う、調べる、読む、試す、企てる    意志的な合目的的動作     急ぐ、終える、手伝う、続ける、励む、始める 16-8 ヲ/ニツイテ     考える、検討する、調べる 16-9 ヲ/ニ     彼をごちそうする、大学を落ちる ▽簡略に  4 無格型:自然現象の動き  5 [ガ] 型:単独動作動詞句・単独自然現象動詞句  6 [ガ、ニ]型  7 [ガ、カラ]型:出現動詞句・消滅動詞句・出発動詞句・成分の動詞句   8 [ガ、ト]型  9 [ガ、カラ、ニ]型 10 [ガ、引用のト、ニ]型:伝聞・伝達動詞句 11 [ガ、ヲ、引用のト]型:判断動詞句 12 [ガ、ヲ、ニ]型 13 [ガ、ヲ、カラ]型:対象出現動詞句・対象消滅動詞句・対称移動動詞句 14 [ガ、ヲ、ト(相互的)]型:対象交換動詞・対象競争動詞 15 [ガ、ヲ、カラ、ニ]型 16 [ガ、ヲ]型 ▽並べ替え 13文型   無格   が         が、を   が、に       が、を、に   が、から      か、を、から   が、から、に    が、を、から、に   が、と       が、を、と   が、引用のと、に  が、を、引用のと ・(が、に、引用と、を)という文型もある。    作業員が主任に給料が安いと文句を言った。 [補説§4]の最初へ 主要目次へ

§4.3 村木新次郎の叙述素

  村木新次郎『日本語動詞の諸相』(1991)から     付け足し:村木の新しい論文から    (村木新次郎「格」『日本語の文法1 文の骨格』岩波書店2000)  次は、村木新次郎の「叙述素」という考え方によるものです。詳しくは村木 の本・論文を読んでください。ここでは、動詞の分類だけをのせておきます。  こういうものをのせて、誰が見るのかなあ、という気もちょっとしますが、 私は以下のリストを写しながら、なるほどなあ、と思うところがいろいろあり ました。  叙述素の種類      「以下にしめすのは、日本語の動詞の構造を、名詞の格形式および範ちゅう的 意味と動詞の範ちゅう的意味とを手がかりとして分類し類型化しようとしたもの である。ここでは、名詞と動詞のあいだになりたつ関係概念を「叙述素」と呼ぶ。」(p.148) 機‐貊蠅亡悗垢觸述素  1.1 空間的位置   +con, +loc   存在 庭に桜の木がある      部屋に学生が残る        ある、おる、いる/残る、余る、住む、ひそむ、かくれる   現象 夜空に星が光る      ひたいに汗が流れる        光る、輝く、照る、響き、凍る、浮かぶ/咲く、はえる   出現 雲間に月が出る      湖畔にホテルが建つ        出る、建つ、あらわれる、生じる、起きる、産まれる   認知 空に三日月が見える 1.2 空間的位置 +con, +con   存在 部屋に学生を残す      病院に友人を見舞う        残す、余す、やどす、はらむ、はやす、流す、ひたる   所持 手に旗を持つ      ひざに娘をだく        持つ、にぎる、とる、だく   出現 駅前にホテルを建てる      家の回りに垣根をつくる        建てる、つくる、あらわす、起こす、うむ、こしらえる   認知 土手につくしを見つける      公園に彼女(の姿)を発見する        見つける、見いだす、さがす、発見する 2.1 非空間的位置  +abs, +-loc      彼には常識が欠けている      両国に紛争が起こる        欠ける、見られる、起こる、生じる、あらわれる、瀕する 2.2 非空間的位置  +abs, +-loc      両者に差異をみとめる      解答に誤りを見いだす        みとめる、見いだす、設ける、おく、起こす、つくる、うむ 3.1 空間的起点   +con, +loc   移動 弟が部屋から出る      社長が会議室から戻る        帰る、来る、行く、上がる、下がる、おちる、とどく、去る   離脱 矢が弓からはなれる      切手が封筒からはがれる        はなれる、はずれる、ぬける、ぬげる、とれる、めくれる   消滅 書類がかばんからなくなる      会社から彼(の姿)が消える        なくなる、消える、うせる、減る、しりぞく 3.2 空間的起点   +con, +loc   移動 荷物を二階からおろす      箱の中から球をとりだす        移す、はこぶ、おとす、上げる、下げる、おくる、とどける   離脱 柱から釘をぬく      封筒から切手をはがす        ぬく、はがす、はずす、とる   消滅 部屋から書類をなくす        なくす、消す、減らす 4.1 空間的着点   +con, +loc   移動 父が会社に行く      芸人が舞台に上がる        行く、来る、いたる、達する、着く、とどく、上がる、下がる   方向 車が右に曲がる      風が南に吹く        まがる、向かう、おれる、進む、それる、はずれる、吹く   付着 矢が的にあたる      子供が手すりにつかまる        乗る、泊まる、当たる、たおれる、ささる、寝る、つかまる 4.2 空間的着点  +con, +loc   移動 荷物を二階に上げる      子供を病院にやる        移す、はこぶ、とどける、くばる、上げる、下げる、あつめる   方向 ハンドルを左にまわす      身体を後ろにそらす        まわす、まげる、折る、そらす、はずす、向ける、ねじる   付着 上着をハンガーにかける      ボタンをシャツにつける        かける、乗せる、差す、はめる、つける、かぶる、とめる 5.1 方向   +con, +loc   移動 兄が図書館に行く      妻が市場に通う        行く、乗る、帰る、向かう、にげる、かくれる、あつまる   方向 太陽が西に沈む      弟が路地を右に曲がる        曲がる、おれる、それる、進む、はずれる、ねじれる 5.2 方向   +con, +loc   移動 石油を外国に運ぶ      息子を病院にやる        送る、わたす、とどける、はこぶ、やる   方向 ハンドルを左にまわす      身を後ろにそらす        まわす、まげる、折る、そらす、はずす、向ける、ねじる 6 空間   div, +loc      みんなが坂道を登る      車が峠を越す        あるく、はしる、進む、およぐ、登る、わたる、越す、越える 7 時間   div, +tim      子供たちが夏休みを過ごす      皆が楽しい時間をおくる        過ごす、おくる、生きる 8 範囲   div, +abs      我がチームが試合に勝つ      この子は数学にすぐれている        すぐれる、まさる、おとる、勝つ、負ける 供|蠑歸関係をあらわす叙述素 9.1 対称  [V:(主格)対称動詞]      甲が乙とたたかう      甲が乙と重なる        たたかう、あらそう、似る、関わる、異なる、違う、まじわる 9.2 対称  [V:(対格)対称動詞]      甲を乙と比べる      甲を乙と混ぜる        くらべる、ぶつける、合わせる、似せる、かさねる、まぜる 10.1 関連       甲が乙と似る      甲が乙にあたる        似る、合う、関わる、かさなる、まざる、あたる、相当する 10.2 関連       甲を乙に似せる       甲を乙に重ねる        似せる、合わせる、ぶつける、当てる、まぜる 11.1 比較  [V:(主格)比較動詞]      甲が乙よりまさる      甲が乙より遅れる        まさる、すぐれる、おとる、進む、おくれる 11.2 比較  [V:(対格)比較動詞]      甲を乙よりこのむ      甲を乙より進める        このむ、進める、おくらす 12.1 資格   [NはNだ、が成立]      姉は(生涯)独身で通す      父は課長で終わる        ある、通す、終わる、おさまる 12.2 資格   [NはNだ、が成立]      彼をゲストに迎える      辞書を枕に使う        迎える、使う、やとう、とる、だす、よこす 13.1 内容   [NはNだ、が成立]   精神活動 彼が外国人とわかる        雑草が芝生に見える         わかる、見える、聞こえる、きまる 13.2 内容   [NはNだ、が成立]   精神活動 彼を一人前と見なす        娘を綾子と名づける         みなす、呼ぶ、記す、名づける、書く、たとえる、きめる 14.1 相手   +hum   授受 甲が乙に本をあたえる      甲が乙に金を貸す        あげる、わたす、貸す、借りる、おしえる、さずける、売る 14.2 相手   +hum   授受 乙が甲から本をもらう      乙が甲から金を借りる        もらう、借りる、うける、おそわる、あずかる、買う 15.1 数量   +qua      費用が5千円かかる      会議が3時間つづく        かかる、ふえる、へる、つづく、のびる、進む、おくれる 15.2 数量   +qua      期間を3年かける      体重を3キロへらす        かける、ふやす、へらす、つづける、のばす、進める、遅らす 掘仝彊・目的に関する叙述素 16 起因    +act   精神活動 弟は借金になやんでいる         彼女は寒さにふるえている        なやむ、こまる、おどろく、ふるえる、おちつく 17.1 動機   +act   移動 母が買い物に行く        所長が挨拶にたつ         行く、でかける、向かう、いそぐ、立つ 17.2 動機   +act   移動 息子を買い物にやる        弟子を修行に出す         やる、つかわす、おくる、出す 18.1 逆動機  +act      弟がピアノの練習からもどる      社長が出張から帰る        もどる、帰る 18.2 逆動機  +act      弟子を稽古から帰す        もどす、帰す 検(儔宗作用に関する叙述素 19.1 非空間的起点   変化 娘が眠りからさめる      信号が赤から(青に)変わる        変わる、化ける、のびる、覚める   出現 米から酒ができる      水は酸素と水素からなる        できる、なる、生じる、うまれる   知覚 話しぶりから年齢がわかる        わかる、見える、聞こえる 19.2 非空間的起点   変化 娘を眠りからさます      住まいをアパートから(一戸建てに)変える        変える、のばす、化かす、覚ます   出現 米から酒をつくる      参加者から代表をえらぶ        つくる、設ける、えらぶ、産む、組織する   知覚 話しぶりから事態を察する      雰囲気からことの次第を知る        知る、察する、判断する、想像する 20.1 非空間的着点   変化 娘がピアニストになる      信号が(赤から)青に変わる        なる、変わる、陥る、入る、移る 20.2 非空間的着点   変化 水を氷に変える      息子を一人前に育てる        変える、移す、育てる   出現 毛糸をセーターにあむ      風景を絵に書く        あむ、折る、縫う、炊く、つくる、書く 21.1 対象(出現)   出現 家が建つ      ごはんがたける        できる、産まれる、生じる、あらわれる、たける 21.2 対象(出現)   出現 妻がセーターをあむ      両国が争いをおこす        つくる、こしらえる、あむ、折る、書く、著わす 22.1 対象(消滅)   消滅 あかりが消える      謎がとける        消える、落ちる、なくなる、失せる、とける 22.2 対象(消滅)   消滅 夫があかりを消す      先生が謎をとく        消す、落とす、なくす、とく、食べる、飲む 23.1 対象(変化)   変化 ガラスがわれる      机がこわれる        割れる、壊れる、折れる、つぶれる、死ぬ、枯れる 23.2 対象(変化)   変化 弟がガラスをわる      学生が机をこわす        割る、壊す、折る、つぶす、殺す 24 対象(受影)  接触 彼女が荷物をもつ     太郎が次郎をなぐる        持つ、だく、なぐる、打つ、たたく、ける、さわる 25 動作主     紳士が歩く     妹が顔を洗う       歩く、飛ぶ、食べる、見る、みがく、こわす、さわる 26 態度  精神活動 子供が親にあまえる       学生が西洋にあこがれる         甘える、惚れる、あこがれる、ひたる、なじむ、頼る 后,修梁召僚述素 27.1 対象       桜の木がある       雪が降る         ある、いる、降る、吹く、すぐれる、おとる、接する 27.2 対象       みかんはビタミンCをふくむ       弟が山を見る         ふくむ、超える、見る、聞く、読む、壊す、まげる 28.1 手段       彼はナイフで鉛筆を削る       父はバスで病院へ通う         通う、壊す、つぶす、割る、まげる、折る、溶く 此 崛澗痢殄分」の関係 29.1 「全体−部分」        彼は腰が痛む       竹は地下茎が伸びる 29.2 「全体−部分」       妻が足を痛める       桜が花を咲かせる 29.3 「全体−部分」       父親が娘をひざにだく       薩摩芋は根に養分をたくわえる 29.4 「全体−部分」       妹が目から涙を流す       三原山が噴火口から煙をはく 29.5 「全体−部分」       弟がボールを足で蹴る       父は自分の目でたしかめる 察 崋膺諭歛μ漫廚隆愀 30 焦点  状態・性質 二人は性質が違う        彼女は性格が変わっている
◇村木の新しい論文から
 村木は「叙述素」について、次の論文ではもう少しくわしく例をあげています。    村木新次郎「格」『日本語の文法1 文の骨格』岩波書店2000  上の『日本語動詞の諸相』は1991年の出版ですから、10年近くたっています。  内容的にはほとんど変わりがありませんが、「格」のほうでは例を増加しています。  たとえば、『諸相』では最初の叙述素は次のようになっています。   機‐貊蠅亡悗垢觸述素    1.1 空間的位置   +con, +loc    存在 庭に桜の木がある       部屋に学生が残る        ある、おる、いる/残る、余る、住む、ひそむ、かくれる    現象 夜空に星が光る       ひたいに汗が流れる        光る、輝く、照る、響き、凍る、浮かぶ/咲く、はえる    出現 雲間に月が出る       湖畔にホテルが建つ        出る、建つ、あらわれる、生じる、起きる、産まれる    認知 空に三日月が見える  同じ部分が「格」では、    存在 庭に 桜の木が ある       部屋に 学生が 残る     (岬に燈台がある/牧場に牛がいる/月が中空にかかっている/会社に役職     者だけが残る/息子が東京に住む/台所にゴキブリがひそんでいる/栗の木     の陰にりすが隠れている)      現象 夜空に 星が 光る       ひたいに 汗が 流れる     (夜道に電灯がひかっている/朝日が湖面に輝いている/サイレンが辺りに     響く/青空に雲が浮かんでいる/庭にバラの花が咲く/道路脇に雑草がはえ     る)    出現 雲間に 月が 出る       湖畔に ホテルが 建つ    (玄関に男があらわれる/隣の家に赤ちゃんが生まれる/壁一面にかびが生じる)    認知 空に 三日月が 見える                              (p.89-90) となっています。『諸相』では動詞の例だけだったのが、補語を添えた具体的な動詞句 の例となっています。くわしく考えてみたい人は、「格」の方をみることをおすすめし ます。

§4.4 村木新次郎「格」から

  村木新次郎「格」(p.47-115)『日本語の文法1 文の骨格』岩波書店2000 ▽この論文は上の「叙述素」の紹介のところでも「付け足し」として紹介しました。  以下の部分は、格の基本的問題を述べていて参考になるので引用しておきます。 p.49  格とはなにか。格という文法用語には、さまざまな使い方があって、統一された見解 があるわけではない。それが文法用語であるという点では共通しているものの、あると きは名詞の形の体系であり、あるときは名詞の他の単語に対する意味関係であり、また あるときは主語や目的語など、文や動詞句における名詞の機能を指し示したりというふ うに、いくつもの違った使われ方をしている。それで、格とはそもそもなにかという問 いから始めたい。  (中略)  つまり、格とは、   名詞類が文の中で他の単語に対してとる関係のあり方を表す文法カテゴリ と定義することができる。格は、狭義には、名詞類が他の単語に対してもつ意味的な関 係のあり方を明示している語形上の特徴である。この伝統的な定義のもとでは、語形変 化の対立にもとづく形態論的なカテゴリであるということを確認しておきたい。サンス クリットには、主格、対格、与格、属格、奪格、処格、具格、呼格の八つの格がみとめ られるが、多くの印欧語では格の融合によって、格の数を少なくしていった。すなわ ち、ラテン語では具格と処格が奪格に統一され、6格に、ギリシャ語では具格と処格が 与格に、奪格が属格に統一され、5格にというふうに格の数をへらした。今日のドイツ 語では、主格、対格、与格、属格の四つの格をとどめるにいたっている。  (中略)  現代の英語では、代名詞に格の体系を残すだけで、一般の名詞は無標識の通格と有標 識の属格('s)だけとなり、格にもとづく語形変化をなくしている。通格は語順のたすけ によって、すなわち、述語動詞の前に位置するか、それとも後に位置するかによって、 主語と直接目的語の違いをあらわし、多くは副詞から発達した前置詞が、分析的に名詞 の格の機能をはたしているということになる。                           (p.49-50) ▽「狭義には、語形上の特徴である」「前置詞が名詞の格の機能をはたしている」  というところに注意してください。格とは、まずカタチであり、しかし、英語  では、前置詞によって表される部分が多いのです。  日本語では、格助詞によって示され、格助詞相当句(複合格助詞)によって補わ  れています。そのカタチと機能は、きれいに対応しているわけではありません。 p.58  名詞の格をめぐる問題は、すでにふれたように、コンピュータによる言語情報処理の 世界でとりあげられることが多かったが、一方で、外国人に対する日本語教育の世界で も、しばしば問題にされてきた。  英語を外国語として学習しようとするとき、日本語の「着く/到着する」にあたる単 語は、reach,arrive であると知っても、それだけでは不十分である。これらの動詞は目 的地が、前者の場合には、to reach the station であり、後者の場合は to arrive at the station のように前置詞を必要としないか必要とするか、必要な場合、それはどの ような前置詞かという情報が不可欠である。日本語についても同様のことがいえる。 「侵入する」は「〜に」を要求するが、「侵略する」は「〜を」を要求するといったこ とにあたる。類義語の関係にある「恐れる」はその対象を「病気を恐れる」のように 「〜を」でいうのに、「おびえる」の方はそれを「病気におびえる」のように「〜に」 であらわす。また「わかる」は普通その内容を「結果がわかる」のように「〜が」でい うのに、「知る」はそれを「結果を知る」のように「〜を」であらわす。辞典にも、こ のような格支配の記述がしめされていることが望ましい。外国人を対象とした日本語辞 典には、こうした格支配、あるいは、形式的な格を提示するにとどまらず、それぞれの 格にどのような名詞がたちうるかといったことをしめしたものがあらわれた。  日本語を母語としない人に日本語を教えると、相手をあらわすのに、「〜に」を用い るのか「〜と」を用いるのかといったことが問題になる。「〜に」は一方的な方向性 を、「〜と」は相互的な方向性という点で対立的であるが、これが個々の動詞のもつ格 支配の性質というだけにとどまらず、以下のようにさまざまな意味分野でこの特徴がみ られることを知ることによって学習の成果が期待されよう。表2.2は、「〜に」と「〜 と」の格支配をめぐる、あらそい・言語活動・結婚・合流・接近など、さまざまな意味 領域における動詞の用法を整理したものである(宮島達夫1972による)。                                 (p.58-59)    表2.2 ニ格、ト格における動詞の用法(宮島1972)    AがBに〜   AがBと〜   AがBに/と〜        手向かう    あらそう    対抗する    はむかう    たたかう    抗する     わたりあう    敵する     対戦する            ちぎる     ちかう                    約する                    約束する    いう      かたらう    はなす    のべる     はなしあう   かたる    おっしゃる           しゃべる              うちあわせる  相談する                    交渉する    よりすがる           よりそう    とつぐ     結婚する    嫁する    あやかる            にる    くわわる            あわさる   まざる 合流する 合同する    せまる             近づく                              (p.60)    ▽上の引用文の中の、    外国人を対象とした日本語辞典には、こうした格支配、あるいは、形式的な格を    提示するにとどまらず、それぞれの格にどのような名詞がたちうるかといったこ    とをしめしたものがあらわれた。  というのは、どの辞典のことを言っているのでしょうか。 [補説§4]の最初へ 主要目次へ

§4.5 IPAL動詞辞書の文型

 IPALという、動詞辞書があります。その文型表はかなり細かいものです。 まず、IPALの紹介を。(動詞以外に、形容詞、名詞の辞書もあります。  『計算機用日本語基本動詞辞書IPAL(Basic Verbs)』(1987)    情報処理振興事業協会 技術センター  書名の通り、そもそもはコンピュータのための非常に特殊な辞書です。一般の書店で は売っていませんでした。「まえがき」から引用します。    情報処理振興事業協会(IPA)では、昭和61年4月以来IPAL    (Basic Verbs)という計算機用日本語基本動詞辞書をマシンリーダ    ブルな形式で、広く業界ならびに学会に提供を行ってきた。    これに対し、ハードコピー版に対する強い要望がIPAに寄せられ    ている。これらの要望の中には、IPALを利用した応用プログラ    ムを開発する際の参照用に使いたいという要求のほかに、内外の日    本語研究者から研究資料に使いたいという希望や、日本語教育関係    者から日本語学習の参照資料にしたいといったものも含まれている。    これらの要望に応えて、磁気テープ版IPALの内容を参照用に編    集し、机上版を作成した。(以下略)  和語動詞を主に861語記載しています。短い項目の例として「そだつ」の記述をその まま引用します。いろいろな記号がわからないと思いますが、ふんいきだけ。   そだつ   五段 sodat    1【育つ】自 《統》<文> N1ガ(N2デ)(N3ニ)「息子が     一人前に育つ。」「苗が育つ。」<述> NG1,IN,O1c     <名1> N1ガ[DIV]子供、息子、子犬、苗、夢、会、組織、     男女平等という考え <名2>(N2デ)[ABS]母乳、母の手、     彼女の努力 <名3>(N3ニ)[ABS]一人前、ピアニスト      《意》<意記>そのものが成長・発展する。<類>成長する、生長す     る <国分>生・生育:2.581 <角分>成育:072,養成:455e       <分>動作(動き),(状態)変化 《形》<派他>そだてる <転     名>そだち <転他>そだちざかり《文法》<態>×、間受,尊敬:     中動 <時相>未来、結果残存、テイク,テクル,テシマウ,カケ     ル,ツツアル <法>願望、推量、×:2|マス,ナイ    2【育つ】自 《統》<文> N1ガ「音楽家が育つ。」「偉大な政     治家が育つ。」<述>O1e <名1> N1ガ [HUM]ピアニ     スト、専門家、技術者 《意》<意記>ある存在として成長する。     <類>成長する <国分> 生・生育 2.581<角分>養成 455e      <分>動作(動き),(状態)変化,出現・発生《形》<派他>そだ     てる <転名>そだち《文法》<態>×、間受,尊敬:中動 <時相>     未来、結果残存、テシマウ,カケル <法>願望、推量、×:2|      マス,ナイ                            (p.194)  どう見ても、人間が使う辞典としてはわかりやすいものではありませんが、その中の 例文、文型、名詞の例などを見ていくと、多くの有益な情報が記述されていることがわ かります。  記号の説明をやはり少し。記号・略語のいくつかの説明を同辞書の「辞書略語表」 から引用します。  《統》統語に関する情報   <文> 文型、文例   <述> 述語素    NG1:非空間的着点  IN:手段  O1c:対象    名詞の意味素性     [DIV]diverse 制限緩やか  [ABS]abstract 抽象名詞    [HUM]human 人間  《意》意味に関する情報    <意記> 意味記述    <国分> 国立国語研究所『分類語彙表』の分類名称と分類コード    <角分>『角川類語新辞典』の分類名称と分類コード    <分> 意味分類名称  《形》形態に関する情報    <派他> 派生語 対応する他動詞    <転名>派生語 転成名詞    《文法》文法的カテゴリに関する情報        <態> 使役が使えるかどうか  受身(直接・間接)になるか                            (以下略)  「そだつ」の文型としては、    「N1ガ(N2デ)(N3ニ)」     「N1ガ」 の二つを立てています。  この辞典の分析によれば、    「Nガ」は育つ「変化の対象」    「Nデ」は「手段」であり(「母乳で・母の手で」)    「Nニ」は「非空間的着点」 です。  「ピアニスト」がN1とN3の両方に出てくるのは、「(子供が)ピアニストに育つ」 と「ピアニストが育つ」では、「ピアニスト」の意味役割が違うということでしょう。  この辞書の文型リストが、別の論文に載っているので、それを下に写します。動詞の 例を少し省略したところがあります。
IPAL文型リスト
(一部動詞例省略) <α> 1a ガヲ V  あがる、あげる、集める、当てる、争う、歩く、合わせる、         急ぐ、いれる、動かす、疑う、奪う、埋める、送る、教える、           落とす、思う、泳ぐ、おろす、買う、かえす、代える、掛ける 1b ガ ニ/ヲ V 生きる、落ちる、構う、漂う、通る、走る、舞う 1c ガ ヲ/φ V 稼ぐ、出す 2a ガ カラ ヲ V 預かる、集める、浴びる、受ける、奪う、選ぶ、得る 2b ガ カラ/ニ ヲ V 仰ぐ、伺う、買う、借りる、聞く、下げる、貰う 2c ガ ヲ カラ V 救う 3a ガ ト ヲ V  争う、合わせる、打ち合わせる、打ち消す、惜しむ、     代える、代わる、切る、組む、比べる、する、接する、絶つ、          通じる、つなぐ、強める、取り替える、並べる、離す、交える、         交ぜる、間違う、結ぶ、持つ、分ける 3b ガ ト/ニ ヲ V 当てる、改める、合わせる、打ち合わせる、重ねる、        する、揃える、取り替える 3c ガ ヲ ト V  仰ぐ、諦める、言う、受け取る、頼む、取る、にらむ、        隔てる、認める、みなす、命じる、呼ぶ 3d ガ ヲ ト/ニ V 代える、決める、定める 4a ガ ニ ヲ V  あける、あげる、あずける、あてる、浴びる、祈る、          いれる、植える、伺う、受ける、うたう、打つ、うつす、           移す、売る、得る、置く、おくる、起こす、教える、押す、          覚える、折る、買う、書く、飾る、固める、聞く 4b ガ ニ/ヘ ヲ  上げる、集める、落とす、下げる、着ける、通す、流す 4c ガ ヲ ニ V  当たる、あてる、表す、入れる、描く、置く、抑える、          収める、思う、折る、折れる、代える、限る、掛ける   5a ガ ヲ デ V  上げる、表す、埋める、覆う、落とす、固める、殺す 5b ガ デ ヲ V  食う、殺す、探る、繋ぐ、貫く、取る、巻く、結ぶ 5c ガ デ ヲ/φ V  暮らす 6  ガ ヲ φ V 抱える、進める、擦る、ずらす、縮める、縫う、延ばす     負債を一億円抱えている 時計を5分進める 頭を六針縫った    7  ガ ヲ トシテ V  扱う 8a ガ カラ ニ ヲ V  上げる、改める、現す、入れる、受け取る、打つ、             写す、選ぶ、送る、落とす、おろす、書く、掛ける 8b ガ カラ ニ/ヘ ヲ V  上げる、集める、急ぐ、入れる、動かす、     動く、移す、移る、追う、送る、落とす、返す、帰る、越える 8c ガ ヲ カラ ニ/ヘ V  上がる、下りる 9a ガ ト ヲ ニ V  揃える 9b ガ ニ ト ヲ V  付ける 10  ガ ニ ヲ φ V  出す、包む、潰す 11  ガ カラ ニ/ヘ ヲ ニ V  出す、叫ぶ <β> 12a(ガ)N  安心      A  暖かい、暑い、うれしい、悲しい、さびしい、寒い、楽しい 12b ガ N  赤ちゃん、明らか、悪質、鮮やか、厚め、雨、あらめ、哀れ、       安易、生き物、いたずら、一件、田舎、芋、いろいろ、いんちき、          薄め、嘘つき、円満、狼、臆病、穏やか、大人、同じ、おばさん      A  青い、赤い、明るい、浅い、暖かい、新しい、あつい、厚い      V  合う、あがる、あく、明ける、遊ぶ、当たる、集まる、争う 13a(ガ)ガ N 哀れ、嫌、軽め、可哀そう、感心、気の毒、窮屈、爽やか        A 温かい、熱い、甘い、痛い、うれしい、惜しい、重い 13b(ガ)ガ/ヲ N 嫌い          A ほしい 13c ガ ガ A 青い、明るい、温かい、甘い、あやしい、荒い、いけない        V 合う、痛む、落着く、渇く、利く、凝る、覚める、過ぎる 13d ガ ガ/ニ A あつい、忙しい、薄い、ふさわしい 13e ガ ガ/ヲ V できる 14a ガ カラ V 上がる、有る、浮く、生まれる、起こる、落ちる、通う 14b ガ カラ/ト V ずれる、隔たる、分かれる 14c ガ カラ/ニ A 近い、遠い          V 始まる、外れる、漏れる 14d ガ カラ/ヲ V 落ちる、降りる、去る、退く、発つ、逃げる、抜ける 14e カラ ガ A 多い、少ない、乏しい、ない 14f カラ/ニ ガ A 多い、少ない、高い、強い、ない、低い、良い、弱い 15a ガ ト N 同じ、逆、合同        A 親しい        V 合う、争う、言う、組む、異なる、すれ違う、戦う、違う 15b ガ ト/ニ A 近い、遠い、等しい          V 合う、会う、当たる、重なる、決まる、親しむ、なる 16a ガ ヨリ N 後、上、先、下、外、年寄り         A 青い、赤い、明るい、浅い、温かい、新しい、あつい         V 落ちる 16b ガ ヨリ/ニ V 劣る、勝る 17a(二)ガ A 温かい、熱い、甘い、痛い、うまい、うるさい、面白い 17b ガ ニ N 延期、共通、公平、固有、毒、秘密        A 明るい、甘い、うるさい、多い、汚い、厳しい、暗い        V 合う、会う、あがる、飽きる、呆れる、開く、遊ぶ、あた          る、集まる、甘える、余る、現れる、ある、生きる、急ぐ 17c ガ ニ/ヘ V 降りる、通う、ずれる、出かける、寄る 17d ニ ガ N 肝心        A 浅い、厚い、薄い、多い、大きい、濃い、少ない、高い        V ある、いる、要る、浮く、起こる、掛かる、来る、出る    18a ガ デ V 上がる、当てる、生きる、埋まる、済ます、済む、通る 18b デ ガ/φ V 終わる、潰れる   19 ガ φ N 延期、先、後、前       V 有る、遅れる、欠ける、進む、縮む、続く、出る、減る 20a(ガ)ガ ニ A 快い、冷たい、悪い 20b(ガ)ガ/ヲ ニ A ほしい 20c(ガ)ニ ガ A ほしい  20d ガ ニ ガ A 浅い、甘い、薄い、多い、大きい、厳しい、ない         V 有る、入る、涌く 21 ガ カラ/ニ ガ A 厚い、高い、近い、遠い、ない、低い、良い、悪い           V 有る 22a ガ カラ ニ V 上がる、溢れる、改まる、現れる、浮く、移る、及ぶ            返る、掛かる、通う、代わる、変わる、消える、来る 22b ガ カラ ニ/ヘ V 上がる、集まる、伺う、移る、落ちる、通う、来る 22c カラ ニ ガ V 有る 22d ニ カラ ガ A 多い、少ない、強い、弱い 23 ガ カラ φ N 上、後ろ、内側、奥、北、後方、下、手前、中、左、前         V 後れる 24a ガ ト ガ A 著しい、薄い、大きい、近い、強い、ない、深い、古い 24b ガ ト/ニ ガ A 近い、ない、深い           V 有る   25 ガ ト ニ V なる 26 ガ ヨリ φ A 明るい、浅い、暖かい、大きい、遅い、重い、狭い 27a ガ ニ φ V 賭ける、掛ける、留まる、入る 27b ニ ガ φ V 掛かる 28 ガ カラ ニ/ヘ ニ V 立つ 29 ガ ト ニ ガ A 大きい、小さい、ない、甚だしい          V 有る <γ> 30 ニ V 限る、因る 31 ニ デ A 良い       V 足りる、間に合う 32 ヲ φ V 過ぎる <δ> 33 ガ ADV V 言う、写る、稼ぐ、構える、する、付く、出る、なる、運ぶ、         ふるまう、見える、行く 34a ガ ガ ADV V なる 34b ガ ガ/ヲ ADV V なる 35 ガ ニ ADV V 映る、収まる 36a ガ ヲ ADV V 受け取る、送る、思う、暮らす、過ごす、する、染め           る、保つ、取り扱う、運ぶ、見る 36b ガ ヲ/φ ADV V 暮らす、過ごす   この写真はよく写っている   そのアクセサリーは青い服によく映る   うちの嫁はよく稼ぐ   彼は意識がもうろうとしている   お世辞をまともに受け取ってしまう   彼はいたずらに月日を送った <ε> 37 Sト V 見える 38a ガ Sト V 諦める、怪しむ、危ぶむ、言う、偽る、疑う、思う、考          える、感じる、決める、繰り返す、察する、悟る、信じる、             踏む、認める、見る、詠む、論じる 38b Sト ガ V 決まる 39 Sト ニ V 分かる 40 ガ カラ/ニ Sト V 伺う、聞く  41 ガ ニ Sト V 謝る、言う、祈る、伺う、訴える、教える、書く、聞く、          答える、断る、叫ぶ、ささやく、定める、知らせる、記す、          勧める、迫る、尋ねる、質す、頼む、告げる、伝える、問          う、願う、話す、命じる、申し込む、呼びかける、わびる 42a ガ ヲ Sト V 疑う、促す、思う、考える、叱る、とがめる、慰める、            ほめる、見る、呼ぶ、詠む 42b ガ Sト ヲ V 戒める、決める、定める、諭す、責める 43 ガ ニ Sト ヲ V 言う、促す、語る、断る、出す、述べる 44 ガ ヲ Sト ADV V 言う [補説§4]の最初へ

§4.6 『文法ハンドブック』動詞文型

『初級を教える人のための日本語文法ハンドブック』(2000)は、言うまでもなく 優れた文法書ですが、動詞文型についてははなはだ不満足な記述しかありません。 同書の「§2.格助詞」から引用します。   動詞文では次のような必ず必要な格の組み合わせがあります。このような組み  合わせを文型と言います。     。悗V   走る・・・   ■繊。悗YをV 殺す、愛する、作る・・・    B XがYにV 触る、話しかける;着く、変わる・・・      C XがYとV 結婚する、離婚する、戦う・・・    D XがYからV 出る・・・    E XにYがV できる、わかる、見える;いる/ある・・・   A XがYにZをV あげる、入れる、変える;もらう・・・    B XがYをZからV 出す・・・                            (同書p.18)    この後に、「ガ格」「ヲ格」「ニ格」などの格と、「主体(動作主)」「対象」 「相手」などの関係が解説されていますが、文型の提示は上の表があるだけで、そ れぞれに文型について、さらに詳しい解説はありません。  それぞれの動詞文型の後にある動詞例も、上に引用したものがあげられているだ けで、「・・・」の部分は引用者による省略ではなく、同書にあるものです。つまり、 動詞の例の数が非常に少ないのです。  また、「■臓廚痢嵜┐襦∀辰靴ける;着く、変わる・・・」にある「;」の記号の 前後でどういう違いがあるのかという解説もありません。他の箇所の「;」につい ても同様です。  これでは、動詞文型の解説とは言えません。もう少し何とかしてほしかった。 [補説§4]の最初へ

§4.7 『新版 日本語教育事典』の動詞文型

 この事典を見るのを忘れていました。p.104に、表がありました。
共起格助詞の組み合わせ型の例(項目執筆:仁田義雄)
・[Nガ](自らのみの運動・変化を表すもの  暴れる(男が暴れている)、生きる、騒ぐ、泣く、笑う、照る、光る、揺れる:枯れ る、砕ける、切れる、はげる、固まる、溶ける、温まる、冷める、濁る、ゆるむ、乱 れる、曲がる… ・[Nガ、Nニ](起因をとる心理・生理的活動)  弱る(A君がB君の強引さに弱っている)、困る、喜ぶ、おびえる、あわてる、苦し む、驚く、参る(母が暑さに参る)、(看病に)疲れる… ・[Nガ、Nト](相互動作・相互状態)  争う(源氏が平家と争った)、結婚する、けんかする、離婚する、婚約する、会談す る、交際する、ずれる(彼の考えは常識とずれている)、違う… ・[Nガ、Nニ](対手めあて)  いばる(彼は部下にいばっている)、吠える、(彼に)従う、逆らう、尽くす、仕え る、甘える、頼る、(彼/議案に)反対する、賛成する、背く、抵抗する… ・[Nガ、Nヲ](他への働きかけ)  洗う(母が服を洗った)、ゆらす、握る、もむ、振る、なでる、押す、叩く、ける、 打つ、押さえる:暖める、冷やす、折る、固める、溶かす、砕く、育てる、助ける、 静める、煮る、乱す、汚す、焼く… ・[Nガ、Nヲ](通過)  登る(男が山を登った)、降りる、転がる(ボールが廊下を転がる)、渡る、横切 る、通る、回る(地球が太陽の回りを回る):歩く(子供が歩道を歩く)、飛ぶ… ・[Nガ、Nニ](引っつき)  はねる(泥水がズボンにはねた)、つく、引っつく、掛かる(服がハンガーに掛かっ ている)、刺さる、当たる… ・[Nガ、Nカラ](取れ)  外れる(腕から時計が外れた)、はがれる、ちぎれる、取れる、抜ける… ・[Nガ、Nヲ、N二](引っつけ)  置く(子供が机の上に本を置いた)、積む、(工場に機械を)すえる、乗せる、上げ る、つける、貼る、(書類に判を)押す、刺す、塗る、掛ける、(上着をハンガーに) つるす、(仏壇に花を)供える… ・[Nガ、Nヲ、Nカラ](取り外し)  外す(男は腕から時計を外した)、取る、(板から釘を)抜く、はがす、(枝から柿 を)ちぎる… ・[Nガ/カラ、Nヲ、Nニ](与え)  あげる(子供が犬にえさをあげた)、与える、(僕から彼女に花束)贈る、売る、恵 む、貸す、やる、(近所に土産物を)配る、(彼に資金を)出す… ・[Nガ、Nヲ、Nカラ](取り)  (会計が会員から会費を)集める、取る、奪う、盗む、預かる、(彼から金を)得 る… ・[Nガ、Nヲ、Nカラ/二](貰い)  (僕が彼{から/に}本を)もらう、借りる、いただく、たまわる…                           (p.104) ▽13の「共起格助詞の組み合わせ型」つまり動詞文型があげられているのですが、 どうやらこれで全部ということではないようです。「〜の例」です。  たとえば、基本的文型である存在文の「ある・いる」や移動動詞の基本「行く ・来る」などの文型があげられていません。つまり、    N二 Nガ ある・いる    Nガ Nヘ/ニ 行く・来る と表される文型です。  しかし、なぜこれらの13文型が「例」として選ばれたのか。  動詞の例をこれだけ並べるなら、それを減らして文型の数を増やし、基本的な ものを一通り出してくれたほうが、読者としては利用価値が高いように思うので すが。  あまりに基本的なものは省略した、ということでもないでしょう。「Nヲ」だ けの他動詞もあげられているのですから。    それはともかく、あげられている文型を見てみると、文型どうしの対応を意識 して並べられているようです。特に後半。  「引っつき」「取れ」というのは、次の「引っつけ」「取り外し」と対応して いるのでしょう。    「引っつき」 掛かる、刺さる −− 掛ける、刺す 「引っつけ」    「取れ」   取れる、抜ける −− 取る、抜く  「取り外し」  「与え」と「貰い」が対応するのはわかりやすいのですが、間にある「取り」 も「与え」に対応しているのでしょうか。  「取り」の「集める」に対応する動詞は「集まる」ですが、これは上の「取れ」 と同じ文型[Nガ、Nカラ]になるのでしょう。(会員から会費が集まった)  動詞文型の体系はなかなか複雑なようです。 [補説§4]の最初へ

§4.8 基本動詞のリスト A・B

 動詞文型などを考えるために基本的な動詞のリストがあると便利なので、意味別の リストをここにコピーしておきます。 A.『日本語能力試験出題基準』3級語彙 (「国研二千語」の範囲内)   『分類語彙表』による動詞意味分類 2.用の類 2.1 抽象的関係 2.112 似る 違う 変わる 合う 2.113 脱ぐ 包む かぶる 2.120 ある いる おる いらっしゃる 2.121 出る 出す いる(要る) 2.122 できる 成る わく 起きる 2.124 残る なくなる 落とす 消える 消す 2.125 取る 棄てる 2.131 できる  2.132 こわす 2.134 こむ 2.150 変える 変わる 取り換える 乗り換える なおる なおす(治・直)     戻る 始まる 始める 終わる やむ やめる やすむ 済む     かたづける 続く 続ける 2.151 動く 揺れる まわる 立つ 起きる 起こす 寝る すわる     倒れる 置く 受ける 下げる かかる 掛ける 投げる 2.152 移る ひっこす 渡る 渡す 届ける 送る 運ぶ 出掛ける 着く     走る 飛ぶ 通る 伝える 過ぎる 逃げる 通う 来る 行く      参る いらっしゃる 帰る 返す 2.153 出る はいる いれる 吸う 2.154 上がる 上げる のぼる 下がる 下げる おりる 落ちる 落とす     降る 乗る 降りる  2.155 合う あく あける 開く(ヒラク) 閉まる 閉める 集まる 集める     連れる 2.156 さわる 付く 付ける 寄る 貼る 並ぶ 並べる 打つ 押す 引く 2.157 折れる 曲がる こわれる こわす 割れる 切る 2.158 殖える 足す 太る 2.16  過ぎる 暮れる 急ぐ おくれる 間に合う 2.19  足りる 過ぎる 2.3 精神および行為 2.300 疲れる 眠る 寝る 2.301 驚く 喜ぶ 困る おこる 2.303 笑う 泣く 鳴く  2.304 がんばる 待つ 祈る 2.305 習う おぼえる 忘れる 思い出す 慣れる 2.306 思う 考える 知る わかる 選ぶ 調べる 足す 引く 探す     見つかる 見つける きまる きめる 2.307 間違える 2.309 見る 見える 見せる 聞く 聞こえる 伺う 2.310 呼ぶ 歌う 2.312 言う 申す おっしゃる 知らせる 2.313 話す 尋ねる 伺う 答える 2.315 書く 読む 2.32  写す 弾く 2.332 働く 勤める 休む 2.333 起きる 寝る 着る はく 脱ぐ 食べる 召し上がる 住む 泊まる 2.337 弾く 踊る 泳ぐ 遊ぶ 2.338 騒ぐ 2.339 すわる 歩く 走る 踏む 持つ 拾う かむ 飲む 吹く 吸う 2.342 する やる なさる いたす 行なう 2.351 会う 別れる 待つ 迎える 訪ねる 2.352 頼む  2.353 勝つ 負ける 2.364 教える 2.365 手伝う 2.368 あやまる ほめる しかる 2.370 持つ 取る 盗む 2.371 払う 2.376 売る 買う 2.377 上げる 差し上げる やる くれる くださる 受ける もらう     いただく 2.378 貸す 借りる 2.382 建てる 2.383 運ぶ 2.384 焼く 洗う 2.385 消す 使う 2.386 作る 2.5 自然 2.502 よごれる 2.503 鳴る 2.513 濡れる 乾く 2.515 降る 晴れる 吹く 2.516 焼ける 焼く 消す 2.517 冷える 沸く 沸かす 2.581 生まれる 生きる 育てる 咲く やせる 2.582 死ぬ やせる 2.585 治る B.もう少し語数の多いリストが見つかったので、それものせておきます。   これも『分類語彙表』の意味別分類によるものです。 2.用の類 2.1 抽象的関係 2.111 対する 従う 因る 2.112 似る 違う 変わる 当たる 合う 2.113 脱ぐ 包む かぶる 囲む 抱く 含む まじる まぜる 2.120 ある ございます いる おる いらっしゃる 2.121 現れる 現わす 出る 出す 隠れる 隠す 要る  2.122 できる 成る わく 起こる 起きる 2.124 残る 残す なくなる なくす 落とす 消える 消す 2.125 はずす 取る 棄てる  2.130 そろう そろえる 2.131 できる 空く 2.132 こわす  2.134 こむ 張る 2.150 変える 変わる 改める 代わる 代える・換 取り換える    乗り換える なおる なおす 戻る 始まる 始める 終わる    しまう やむ やめる やすむ 済む かたづける 続く 続ける 2.151 動く 動かす 揺れる 振る まわる まわす 立つ 立てる    起きる 起こす 寝る すわる 傾く 倒れる 倒す ころぶ    敷く 置く 受ける 下げる かかる 掛ける はめる はさむ    投げる 2.152 移る 移す ひっこす 渡る 渡す 届ける 送る 運ぶ    出掛ける 着く 届く 越える 走る 飛ぶ 流れる 流す すべる    通る 通す 伝える 過ぎる 追う 逃げる 通う 進む 進める    来る 行く 参る いらっしゃる 帰る 返す 2.153 出る はいる いれる 詰める 抜く はずす もれる 吸う 2.154 上がる 上げる のぼる 下がる 下げる くだる おりる おろす    落ちる 落とす 降る 乗る のせる 降りる 降ろす(卸す)    浮く 浮かぶ 沈む 2.155 合う 合わせる 解ける 解く まとめる 散る 分かれる 分ける    あく あける 開く(ひらく) 閉まる 閉める 閉じる    つなぐ 結ぶ しばる 重なる 重ねる 積む 集まる 集める    逢う 連れる 2.156 さわる 付く 付ける 寄る 近づく 近寄る 貼る 離れる 離す    並ぶ 並べる 打つ たたく 当たる 当てる 押す 押さえる    突く 引く ひっぱる こする 防ぐ 張る 2.157 折る 折れる 曲がる 曲げる 巻く 畳む こわれる こわす    つぶれる くずれる 破れる 破る 割れる 割る 切れる 切る    刺す 掘る むく 剃る 削る 2.158 殖える 減る 加える 足す 余る ためる たまる 延びる     延ばす 広がる 広げる 太る 2.16 経つ 過ぎる 明ける 暮れる 過ごす 急ぐ おくれる 間に合う    進む 繰り返す 2.17 向かう 向く 向ける 2.19 足りる 余る 限る 過ぎる 2.3 精神および行為 2.300 感じる いたむ 酔う あきる 疲れる 眠る 寝る 覚める 2.301 驚く 喜ぶ 楽しむ 苦しむ 困る 恐れる おこる 悲しむ 悩む    あわてる  −がる 2.302 愛する きらう 憎む  2.303 笑う 泣く 鳴く 叫ぶ 2.304 がんばる 待つ 願う 望む 求める 祈る 祝う あきらめる 2.305 習う おぼえる 忘れる 思い出す 慣れる 2.306 思う 信じる 迷う 考える 疑う 知る 認める わかる 比べる    選ぶ ためす 確かめる 調べる はかる 数える 足す 引く 探す    見つかる 見つける きまる きめる 迷う 2.307 間違う・える 2.309 見る 見える 眺める 見せる 示す 指す 聞く 聞こえる 伺う 嗅ぐ 2.310 呼ぶ 歌う 2.312 言う 申す おっしゃる しゃべる だまる 表わす 知らせる 2.313 話す 述べる 尋ねる 伺う 答える 2.315 書く 読む 2.32 写す 弾く 2.330 はやる 2.332 働く 勤める 休む  2.333 暮らす 起きる 寝る 着る はく 脱ぐ 食べる 召し上がる    住む 泊まる 2.336 祝う 2.337 弾く 踊る 泳ぐ 遊ぶ 2.338 騒ぐ 2.339 つかまえる すわる 腰かける 歩く 走る 踏む ける 持つ     握る つかむ 掻く 拾う かむ 飲む 吹く 吸う 2.342 する やる なさる いたす 行なう 2.351 会う 別れる 招く 待つ 迎える 訪ねる 誘う 2.352 求める 頼む 許す ことわる 2.353 争う 戦う 攻める 守る 勝つ 負ける 避ける 2.363 やとう 従う 2.364 教える 養う 育てる  2.365 助ける 手伝う 2.366 求める 2.367 従う 2.368 頼る あやまる ほめる しかる だます 2.370 持つ 取る 盗む 2.371 払う 2.376 売る 売れる 買う 2.377 配る 与える 贈る 上げる 差し上げる やる くれる くださる    受ける 受け取る もらう いただく 2.378 貸す 借りる 預ける 預かる 2.381 植える 飼う 2.382 建つ 建てる 2.383 運ぶ 2.384 縫う 炊く 煮る 焼く 洗う 拭く 掃く 2.385 飾る 消す 磨く 塗る 張る 扱う 使う 用いる 2.386 作る 2.5 自然 2.501 光る 2.502 よごれる よごす 2.503 鳴る 2.504 におう 2.513 濡れる 干す 乾く 乾かす 2.515 照る 照らす 曇る 降る 晴れる 吹く 2.516 凍る 溶ける 焼ける 焼く 燃える ゆでる 消す 2.517 暖める 冷える 冷やす 沸く 沸かす 2.581 生まれる 産む 生きる 育つ 育てる 生える 茂る 咲く     やせる 2.582 死ぬ 殺す やせる 枯れる 2.583 くさる 2.585 治る 治す
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§4.9 国語辞典の文型表示

最近の国語辞典には、動詞項目に文型を表示するものがあります。最初に文型表示を したのは『新明解』の「第五版」でした。その時は和語動詞だけでしたが、「第六版」 では「スル動詞」とイ形容詞にも文型表示をつけています。  また、最近の小学館の『日本語新辞典』も動詞に文型を表示しています。  下にその一部を書き抜いてみます。それぞれ、語義の区分ごとに表示しているので、 同じものが並ぶところがあります。
新明解国語辞典 第六版 動詞文型
あいさつする、挨拶する 1.<だれニ> あいずする、合図する 1.<だれニ(なにヲ)> あいする、愛する 1. <だれ・なにヲ> あう、合う 1. <なに・だれト> 2. <なにニ> 3. <なにニ>  4. <なにニ> あう、会う 1. <だれト・だれニ> 2. <なにニ> あおぐ、仰ぐ 1. <なに・どこヲ> 2. <だれヲなんだト>   3. <だれニなにヲ> 4. <だれヲなにニ> あがる、上がる 1. <(どこカラ)どこニ・どこヲ> 2. <(なにカラ なにニ)>  3. <どこニ> 4. <(なにニ)> 5. <なにニ>  6. <なにヲ> あきらめる、諦める 1. <なにヲ> あきる、飽きる 1. <なにニ> あきれる、呆れる 1.<なに・だれニ> あける、開ける 1. <なに・どこヲ> あげる、上げる 1. <(どこカラ)どこニなにヲ> 2. <(なにカラなに ニ)なにヲ>  3. <どこニなにヲ> 4. <(なにニ)なにヲ>   5. <なにヲ> 6. <なにヲ> 7. <なにヲ> あこがれる、憧れる 1. <だれ・なにニ>
小学館『日本語新辞典』(松井栄一)の動詞文型表示
  あいする  1ひとを 2もの(こと)を あう、合う  1ものと(に) 2ひとと 3もの(こと)に 4もの(こと)に  5もの(こと)に(と) あう、会う  1ひとに(と)ところで 2ひと(もの)に(と) 3ことに ところで  あえぐ  1ことに あおぐ、仰ぐ  1ものを 2ひとを・・と(として)・ことを 3ひとを・・に   4ことをひとに 5もの(こと)をことに あおぐ、扇ぐ  1もの(ひと)をもので あおる  1ものを 2ものをもので 3ものをもので 4もの(こと)を 5ひとを あかす  1ことを 2ことを あがる  1ところに(へ)・ところを 2ところからところに 3ところに(へ) あきなう  1ものを あきらめる  1ことを 2ものを・・と あきる  1ことに あげつらう  1ことを あけはなす  1ものを あける、開ける・明ける  1ものを 2もの(ところ)を 3ところ(とき)を あげる  1もの(ひと)をところに 2ものを 3ものをところに 4もの  をところに 5ひとを ところに(へ) 6ひとを 7こと(ひと)を  8ものを揚 9ものをひとに 10ひとをところに あこがれる  1こと(ひと・ところ)に 『新明解国語辞典』(第六版)の動詞文型の記述についての解説は「編集方針 細則」 の中に書かれています。少し長くなりますが引用します。  動詞を述語とする文の基本文型   文の意味の的確な理解を図るとともに、表現面への応用に役立つことを意図し、重  要度の高い動詞項目について、それを述語とする文の基本構文の型を記載した。すな  わち、重要語の指示 ** * を付した動詞項目および-スルの形式で動詞としての用法の  あることを示した名詞について、これら動詞を述語とする文を構成する上で必須の要  素である 名詞(句)+格助詞 を一定の方式に従って< >に入れ、構文の型を示し  た。語釈の意味区分の有無にかかわりなくすべての語釈に適用される場合は自他の  別・活用の種類を示した直後に、そうでない場合は ↓等の直後に掲げた。また、  二つの形式がある場合はによって示した。   例、(他五)<なにヲ−>     <なにヲ−> … <だれヲ−/だれニ>-スル<だれト−する>     (−は見出し語に該当する動詞または名詞を示す)  なお、この基本構文の型は ** * を付した形容詞に関しても表示した、   例、<なにニ−>(「明るい」の項)  記載の方針は概ね以下の通りである。  (1)文構成上必須の要素と考えられる格助詞をヲ・ニ・デ・ト・カラ・マデに限った。  (2)動作・作用や存在、性質・状態等の主体を表わす「ガ」(「鳥ガ鳴く」「犬ガいる」 「空ガ青い」)は動詞を述語とするすべての文に必須の要素であることから敢えて   示さなかった。また、動作性の意味を持つ動詞を述語とする文に必須の要素である、   動作・作用の行われる場所を表わす「デ」(「学校デ勉強する」)も同じ理由で示   さなかった。したがって、本辞書に示したデは方法・手段等を表す用法(「電車デ   行く」「木デ作る」)に限られる。 なお、動作・作用を向ける対象を表わすヲ(「紙ヲ切る」)と移動性の動作の経路   や通過点を表わすヲ(「空ヲ飛ぶ」)とを形式的に区別することはしなかった。 (3)格助詞に前接する名詞(句)はその意味の特徴から だれ・なに・どこ・なんだ の   四種に区分した、   だれ・・・・・人または人に準ずるものを表す名詞(句)   例、<だれト−/だれニ−> (「会う 廚旅)    なに・・・・・前記の だれ に該当しない事物・事柄・時などを表わす名詞(句)   例、<(なにデ)なにヲ−> (「暖める 廚旅)    どこ・・・・・場所・位置や物の部分などを表わす名詞(句)   例、<どこニ−> (「居る」の項)    なんだ・・・発言・思考・意志・感情などの内容を表す句   例、<なにヲ/なんだト−> (「考える 廚旅)    ((4)以下は省略:引用者)                 『新明解国語辞典』(第六版)「編集方針 細則」    『小学館日本語新辞典』のほうは、書名を「日本語辞典」としたことが非常に新鮮な 印象を与えますが、「序」で動詞文型について次のように述べています。  三 日本語の文中では、助詞が重要な働きをするが、特に外国人にとってはその使い  方がむずかしい。その悩みをいくらかでもやわらげる手助けとして、主な動詞の項目に、  その動詞を述語とする文型では、どういう意味の場合にどういう助詞を用いるかという  ことが一目でわかるような工夫を施すことにした。    (『小学館日本語新辞典』「序」から)  ここには、外国人に対する日本語教育を考慮に入れていることがはっきりと記されています。  その他にも、類義語の使い分けについての注記など、外国語としての日本語教育に有益な 情報が多い辞典です。  『小学館』の「凡例」の中の解説は、『新明解』の「編集方針」が文型表示について 詳しく解説しているのに比べて、非常に簡潔です。  Ъ腓米飴譴砲弔い董△修慮紊どのような名詞および助詞を伴って用いられるかを、  〔 〕の中に示した。名詞は、モノ・コト・ヒト・トコロなどの種類に分け、それ  ぞれ、モノは形のあるものを、コトは形のない事柄を、ヒトは人間および人間に準じる  ものを、トコロは場所をあらわす。      (『小学館日本語新辞典』凡例p.6)  しかし、実際の文型表示には、   あおぐ     魅灰肇髻    ▲◆魅劵肇髻◆張(トシテ)/コトヲ〕      例 日ごろ人生の師と(として)仰いでいる人/人々から救世主と仰がれる     イ〔ヒトヲ、…ニ〕      例 A氏を総裁に仰ぐ。   あきらめる     魅灰肇髻    ◆魅皀離/…ト〕     例 これも運命とあきらめた。 のように「…」という表示が使われています。どうも方針の不徹底なところがあるようです。

§4.10 『文法ハンドブック』などから自他の対応表

自他の対応を整理した表を引用します。  『概説』本文の分け方とは多少違うところがあります。 『日本語文法ハンドブック』(初級)から (p.96-) §10.自動詞と他動詞  自動詞と他動詞の形態上の対応は複雑ですが、次の点は一般的に言えます。    -aru で終わるものは全て自動詞であり、-aru を -eru に変えると他動詞    になる。    -reru で終わるものは全て自動詞である。    -su で終わるものは全て他動詞である。  主な自動詞と他動詞のペア  A.-aru : X型(左が自動詞、右が他動詞)  A1.-aru : -eru 型    上がる  上げる      高まる   高める    暖まる  暖める      たまる   ためる    当たる  当てる      捕まる   捕まえる   ??    集まる  集める      伝わる   伝える  (わ:え)    当てはまる 当てはめる   つながる  つなげる    改まる  改める      遠ざかる  遠ざける    いたまる いためる     止まる   止める    薄まる  薄める      始まる   始める    植わる  植える      はまる   はめる    終わる  終える      早まる   早める    変わる  変える      引っかかる 引っかける    かかる  かける      広がる   広げる    重なる  重ねる      広まる   広める    固まる  固める      深まる   深める    決まる  決める      ぶつかる  ぶつける    下がる  下げる      ぶらさがる ぶらさげる    定まる  定める      曲がる   曲げる    仕上がる 仕上げる     混ざる/混じる  混ぜる    静まる  静める      まとまる  まとめる    閉まる  閉める      丸まる   丸める    締まる  締める      見つかる  見つける    染まる  染める      もうかる  もうける    助かる  助ける      弱まる   弱める                      A2.-aru : -u 型    刺さる   刺す    はさまる  はさむ    ふさがる  ふさぐ    B.-reru : X型   B1.-reru : -su 型    隠れる  隠す      つぶれる  つぶす    崩れる  崩す      流れる   流す    こばれる こぼす     外れる   外す    壊れる  壊す      乱れる   乱す    倒れる  倒す      汚れる   汚す     B2.-reru : -ru 型    売れる  売る      撮れる   撮る    折れる  折る      ねじれる  ねじる    切れる  切る      破れる   破る    釣れる  釣る      割れる   割る  B3.-areru : -u 型    生まれる  生む  ☆ -eru で終わるものの中でも -reru で終わるものはすべて自動詞   例外: 入る  入れる  C.X: -su 型  C1.-ru : -su 型     写る   写す      出る   出す  ??     裏返る  裏返す     直る   直す    返る   返す      治る   治す    帰る   帰す      残る   残す    転がる  転がす     ひっくり返る ひっくり返す    散らかる 散らかす    回る   回す    覆る   覆す      戻る   戻す       ☆その子が部屋を出た。    田中さんがその子を部屋{○から/×を}出した。  C2−1.-eru : -asu    荒れる  荒らす     生える  生やす    遅れる  遅らす     はげる  はがす    枯れる  枯らす     冷える  冷やす (え:や)    焦げる  焦がす     増える  増やす (え:や)      冷める  冷ます     燃える  燃やす (え:や)    溶ける  溶かす/溶く  漏れる  漏らす    慣れる  慣らす     揺れる  揺らす    逃げる  逃がす     消える  消す (例外)    ぬれる  ぬらす  C2−2.-u (≠-ru) : -asu    動く   動かす     ふくらむ  ふくらます    乾く   乾かす     沸く    沸かす    飛ぶ   飛ばす     減る    減らす(例外)    泣く   泣かす     及ぶ    及ぼす(例外)  C3.-iru : -osu 型    起きる  起こす     下りる   下ろす    落ちる  落とす     滅びる   滅ぼす    降りる  降ろす  D.その他   -u (≠-ru) : -eru    開く   開ける     立つ   立てる      空く   空ける     建つ   建てる    浮かぶ  浮かべる    近づく  近づける    片づく  片づける    縮む   縮める    かなう  かなえる    付く   付ける    傷つく  傷つける    続く   続ける    くっつく くっつける   届く   届ける     沈む   沈める     整う   整える    進む   進める     向く   向ける    育つ   育てる     結びつく 結びつける    そろう  そろえる    緩む   緩める    -eru : -u (≠-ru)    聞こえる  聞く ??   ほどける  ほどく    欠ける   欠く     むける   むく    砕ける   砕く     焼ける   焼く    裂ける   裂く     煮える   煮る    解ける   解く     見える   見る    抜ける   抜く        -ieru で終わる場合は -ru になる。   それ以外    寝る    寝かせる    乗る    乗せる    載る    載せる    ふるえる  ふるわせる     ☆以上を見てわかるように、-eru で終わるもの(-reru を除く)と、-ru 以外の -u で   終わるものは自動詞の場合も他動詞の場合もある。 なお、-eru(-reru を含む)で終わるものはすべて砧狷飴(一段動詞)
『日本語文法概説』(「4.動詞文」)の分類との比較
 ○ 1.[r-u : s-u ] うつる・うつす ○ 2.[re-ru : s-u ] よごれる・よごす ○ 3.[e-ru : as-u] あれる・あらす 4.[i-ru : as-u] のびる・のばす ○ 5.[i-ru : os-u] おきる・おこす ○ 6.[ -u : as-u] うごく・うごかす 7.[ -u : os-u]     およぶ・およぼす ○ 8.[ar-u : e-ru] あたる・あてる  ○ 9.[ -u : e-ru] あく・あける  △ 10.[e-ru : -u ]    きれる・きる  ぬける・ぬく     (reru:ru 型) (eru:u 型) ○ 11.[ar-u : -u ]    つながる・つなぐ  (左の○は「ハンドブック」にもあるもの。△は分け方が違うもの。無印はないもの) 「ハンドブック」のまとめをもう一度。右の数字は「概説」のもの。  A1.-aru : -eru 型   上がる  上げる  8  A2.-aru : -u 型    刺さる   刺す   11  B1.-reru : -su 型   隠れる  隠す    2  B2.-reru : -ru 型   売れる  売る    10  B3.-areru : -u 型   生まれる  生む     C1.-ru : -su 型    写る   写す    1  C2−1.-eru : -asu   荒れる  荒らす   3  C2−2.-u (≠-ru) : -asu  動く   動かす 6  C3.-iru : -osu 型   起きる  起こす   5  D.-u (≠-ru) : -eru   開く   開ける   9  -eru : -u (≠-ru)   ほどける  ほどく  10  比較すればわかるように、「概説」の4.と7.が「ハンドブック」にはありません。  ともに動詞の数は少ないものと思われます。  あと、B3が「概説」にはありません。「生まれる」だけですので。  「概説」の分け方はそっけなく並べただけなので、「ハンドブック」のように、大きく 「ar-u 型」「s-u 型」などのように分けたほうがわかりやすかったかもしれません。  いつか書き直したいと思います。 ついでに、寺村の分類とも比べてみます。
寺村秀夫『日本語のシンタクスと意味機
「第3章 態」(右の数字は「概説」のもの)  1.ar-u : -u   11  2.ar-u : e-ru  8  3. -u : e-ru  9  4.r-u : s-u   1   5.re-ru : s-u   2  6.e-ru : as-u  3   7.i-ru : as-u  4  8.i-ru : os-u  5  9.i-ru : se-ru  見る・見せる  着る・着せる  乗る・乗せる  10. -u : as-u  6              (「概説」の10は寺村では自発態となる)   寺村の9.は、「他動詞:他動詞」が混ざっています。「のる・のせる」は「概説」 では「その他」つまり例外的なものとしています。  寺村は「自発態」について独自の説を立てています。「おれる・ぬける・くだける・ やぶれる」などを「自発」としたのです。「概説」ではその説をとりませんでした。  「概説」で自他の分類を考えたときのことはもう忘れてしまいましたが、今、こう やって寺村と比べてみると、だいたいそのままであることがわかります。それがそ の当時もっとも確実、安全なやり方だったと、今でも思います。
nihon5ch.net の自他分類表
Oyanagi さんのサイト、「nihon5ch」の「の勉強部屋」から、その分類の概略を引用します。  本文はかなり徹底したもので、細かく読む価値がありますが、ここでは概略だけ。 Oyanagi 文法考察ファイル#47           (右端の数字は「文法概説」の分類) グループA:共通語幹に「他動詞化辞」の「・s―」と「自動詞化辞」の「・r―」 A―1 「・す」 対「・る」  例:渡す「wata・su」対 渡る「wata・ru」     1 A−2 「・す」 対「・れる」 例:流す「naga・su」対 流れる「naga・reru」   2 A−3 「・せる」対「・る」  例:寄せる「yo・seru」対 寄る「yo・ru」 B―1 自動詞化辞が「―er―」                          10  1)意味概念が「完全体⇒非完全体」になる動詞 例:切る「kir・u」対 切れる「kir・eru」  2)生産動詞(対象が生産物になる動詞) 例:炊く「tak・u」対 炊ける「tak・eru」  3)その他              例:売る「ur・u」対 売れる「ur・eru」 B−2 自動詞化辞が「―ar―」 (「―aる」)  2−1 他動詞の終止形が「―e・る」 例:上げる「ag・eru」対 上がる「ag・aru」 8  2−2 2−1とベースは同じ  例:塞ぐ「fusa・gu」対 塞がる「fusa・garu」  11 C−1 他動詞化辞が「―er―」 例:開く「ak・u」対 開ける「ak・eru」      9 C−2 他動詞化辞が「―as―」  2−1 自動詞の終止形が「―u」 例:動く「ugok・u」対 動かす「ugok・asu」   6  2−2 自動詞の終止形が「―i・る」 例:生きる「ik・iru」対 生かす「ik・asu」 4  2−3 自動詞の終止形が「―e・る」例:溶ける「tok・eru」対 溶かす「tok・asu」 3 C−3 他動詞化辞が「―os―」  3−1 自動詞の終止形が「―u」 例:及ぶ「oyob・u」対 及ぼす「oyob・osu」  7  3−2 自動詞の終止形が「―i・る」 例:起きる「ok・iru」対 起こす「ok・osu」 5 グループD:分類不能(個別に対応する自他動詞) ▽もう一つ、新しいものを
『新版 日本語教育事典』大修館 2005
自動詞と他動詞 (早津恵美子)p.82-83  表2-8 動詞対の〔r〕と〔s〕を含むもの・含まないもの 《A》自動詞に〔r〕、他動詞に〔s〕を含むもの (A-1)〔〜r-u − 〜s-u〕(ル−ス)   うつる−うつす    かえる−かえす[帰]   くだる−くだす    とおる−とおす   なおる−なおす    のこる−のこす   まわる−まわす    わたる−わたす (A-2)〔〜re-ru − 〜s-u〕(レル−ス)   かくれる−かくす    けがれる−けがす   こぼれる−こぼす    こわれる−こわす   ながれる−ながす    たおれる−たおす   はずれる−はずす    はなれる−はなす (A-3)〔〜r-u − 〜se-ru〕(ル−セル)   のる−のせる      にる−にせる 《B》自動詞に〔r〕を含むもの (B-1)〔〜ar-u − 〜e-ru〕(ァル−ェル)   あがる−あげる     あたる−あてる   あつまる−あつめる   うかる−うける   うすまる−うすめる   うまる−うめる   おさまる−おさめる   かかる−かける   かさなる−かさねる   かたまる−かためる   かぶさる−かぶせる   きまる−きめる   さがる−さげる     そまる−そめる   たかまる−たかめる   たすかる−たすける   たまる−ためる     まがる−まげる   まざる−まぜる     まるまる−まるめる   みつかる−みつける   もうかる−もうける  *うわる−うえる(uwar-u − uwe-ru)   かわる−かえる[変]   くわわる−くわえる   そなわる−そなえる   つたわる−つたえる (B-2)〔〜ar-u − 〜-u〕(ァル−ゥ)   くるまる−くるむ    つながる−つなぐ   ふさがる−ふさぐ    またがる−またぐ 《C》他動詞に〔s〕を含むもの (C-1)〔〜-u − 〜as-u〕(ゥ−ァス)   うごく−うごかす    かわく−かわかす   どく−どかす      とぶ−とばす   なる−ならす[鳴]    へる−へらす (C-2)〔〜e-ru − 〜as-u〕(ェル−ァス)   あれる−あらす     かれる−からす   こげる−こがす     さめる−さます   とける−とかす     なれる−ならす   にげる−にがす     ぬれる−ぬらす   まける−まかす     もれる−もらす *たえる−たやす(taye-ru − tayas-u)   はえる−はやす     ひえる−ひやす   ふえる−ふやす     もえる−もやす (C-3)〔〜i-ru − 〜os-u〕(ィル−ォス)   おきる−おこす     おちる−おとす   おりる−おろす     すぎる−すごす   ほろびる−ほろぼす (C-4)〔〜i-ru − 〜as-u〕(ィル−ァス)   いきる−いかす     とじる−とざす   のびる−のばす     みちる−みたす 《D》〔r〕も〔s〕も含まないもの (D-1)〔〜e-ru − 〜-u〕(ェル−ゥ)   おれる−おる      きれる−きる   くだける−くだく    さける−さく[裂]   とれる−とる      ぬける−ぬく   やぶれる−やぶる    われる−わる (D-2)〔〜-u − 〜e-ru〕(ゥ−ェル)   あく−あける      うかぶ−うかべる   すすむ−すすめる    そだつ−そだてる   たつ−たてる      ちぢむ−ちぢめる   つく−つける      つづく−つづける   とどく−とどける    ならぶ−ならべる *そろう−そろえる(sorow-u − sorowe-ru)   かなう−かなえる    ととのう−ととのえる (D-3)〔〜e-ru − 〜-ru〕   みえる−みる      にえる−にる[煮] ▽「概説」との比較             概説 (A-1)〔〜r-u − 〜s-u〕(ル−ス)    1 (A-2)〔〜re-ru − 〜s-u〕(レル−ス)  2 (A-3)〔〜r-u − 〜se-ru〕(ル−セル)  その他  (B-1)〔〜ar-u − 〜e-ru〕(ァル−ェル) 8 (B-2)〔〜ar-u − 〜-u〕(ァル−ゥ)   11 (C-1)〔〜-u − 〜as-u〕(ゥ−ァス)   6 (C-2)〔〜e-ru − 〜as-u〕(ェル−ァス) 3 (C-3)〔〜i-ru − 〜os-u〕(ィル−ォス) 5 (C-4)〔〜i-ru − 〜as-u〕(ィル−ァス) 4 (D-1)〔〜e-ru − 〜-u〕(ェル−ゥ)   10 (D-2)〔〜-u − 〜e-ru〕(ゥ−ェル)   9 (D-3)〔〜e-ru − 〜-ru〕        その他                     概説の7がない  概説の7   7.[ -u : os-u]      およぶ・およぼす  ほろぶ・ほろぼす  ▽「ほろぼす」は、(C-3)に「ほろびる−ほろぼす」の対で出ています。  だいたい同じ、と言っていいでしょうか。  早津は使役構文、ボイスなどの専門家です。専門の研究者の結果とだいたい同じだ  と、安心します。

§4.11 福島健伸 ニ格とテイル

 興味深いデータを示している論文から例文を抜き書きします。 福島健伸「動詞の格体制と〜テイルについて −小説のデータを用いたニ格句の分析」 『現代日本語文法 現象と理論のインタラクション』ひつじ書房2006 「スル」ではニ格をとらない、あるいは、とりにくい動詞が「シテイル」の形ではニ格 をとりうる 例文集 (1)a.*池に鯉が泳いだ  b. 池に鯉が泳いでいる (2)a.*庭に犬が死んだ  b. 庭に犬が死んでいる (3)a.??木陰に選手たちが休んだ   b. 木陰に選手たちが休んでいる (4)a.*冷蔵庫にビールが冷えた   b. 冷蔵庫にビールが冷えている (5)d. 道端に人が死んでいる (7) あそこに鳥が飛んでいる (10) 行列の中に、あの水島に似たビルマ僧が歩いているではありませんか。 (11) その隣に姉が歩いていた。(梶井基次郎)       (竹山道雄) (12) 国道には避難者が疎らに歩いていた。(井伏鱒二) (24) それから船の上に、「ちょっといいネエちゃん」が二、三人休んでいた   ので、二人も上に上った。(曾野綾子) (25) そのまわりにはいつも何頭かの獣たちが休んでいた。(村上春樹) (29) 「誰? 彼処に泳いでいるのは?」(谷崎潤一郎) (30) 潮が引いたあとの庭の溝に、魚がうじゃうじゃ泳いでいた例がある。     (立原正秋)    (31) ここにはまさかあの爪のはえた魚が泳いでいるんじゃないだろうね?     (村上春樹) (35) 「おい誰かあそこに死んでるぞ」(新田次郎) 「飛ぶ」の例は作例のみ ▽こういう言語事実をどのように文法の中で記述するかが問題です。

§4.12 『日本語基本動詞用法辞典』

小泉他編『日本語基本動詞用法辞典』大修館書店(1989) ▽これはずいぶん前に出版されたものです。動詞の用法を非常に詳しく記述して いて、とても重宝なものだと思いますが、不満な点もあります。 まず、編集方針を「序」から。      この『日本語基本動詞用法辞典』は、基本的な動詞728項目について、   まず、各動詞がどのような助詞をとるかそれぞれの文型を示し、これに   対応する語義を与えて、例文を提示してある。さらに、文法情報として、   受身では直接と間接の別を明示し、使役形、可能形および意志形、命令   形、禁止形の有無を指定し、アスペクトの用法を解説しておいた。    語形は外国人の日本語学習者の便宜をはかり、必要と思われる変化形   のみを表示した。なお、主な複合動詞と慣用句を取り出し、類語にも触   れてある。    このように、本字点は、意味の規定もさることながら、文法と形態に   関するあらゆる情報を記述するように心がけた。                          (「序」p.鵝  本文は563ページですから、1ページあたり1.2 項目という計算になります。  「あいさつする」のような「〜する」の形の動詞がけっこうあり、これらは記 述の短い項目になります。     まずは具体的な動詞項目の例を。かなり短いものを引用します。他の(和語)動 詞はもっと記述が長いので、引用が大変です。これでちょうど半ページ分です。 いそぐ 急ぐ 【意味・文型】  (1) 物事を早く済ませようとする。   《文型》[人・組織]{が/は}[事]を急ぐ   例 政府は規則改正を急いだ・学校側は問題の解    決を急いだ・結論[仕事/準備]を急ぐ  (2) 何かを早くしようと気持ちがあせる。   《文型a》[心]{が/は}急ぐ   例 早く行かねばと、恵子の心は急いだ   《文型b》[人・組織]{が/は}[事]を急ぐ   例 相手は勝ちを急いだ・母は帰りを急いだ・出    勤を急ぐ・結婚[死]を急ぐ  (3) 目的地へ早く着こうとする。   《文型》[人]{が/は}[道]を([所]から)([所]{に    /へ})急ぐ   例 弘は駅から家へ夜道を急いだ・会社へ急ぐ 【文法情報】  <受身>[直接]規約改正が急がれた〔(1)、(2)《文    型b》の時〕[間接]政府に条約改正を急がれ    た〔(2)《文型a》は不自然〕  <使役> 政府に規約改正を急がせた〔(2)《文型a》    は不可〕  <可能> 当局は問題の解決をもっと急げるはずだ   〔(2)《文型a》は不可〕  <相>[テイル形]洋子は夜道を自宅へと急いでいる    (動きの最中)[テアル形]なし  <意志> 問題の解決を急ごう〔(2)《文型a》は不可〕  <命;禁> 会社へ急げ;帰りを急ぐな〔(2)《文型a》    は不可〕 【語形】  <否定>  いそがない  <連用>  いそぎ     <過去>  いそいだ   <中止>  いそいで   <条件1> いそげば   <条件2> いそいだら 【類語】せく、はやる、あせる ▽この項目の記述内容は、   【意味・文型】【文法情報】【語形】【類語】 ですが、他の項目では、【語形】と【類語】の間に、【複合動詞】と【慣用句】 が入るものがあります。それらの例を。 かく 書く 【複合動詞】  書き起こす[〜を]:新しく書き始める。例 来月には   もうひとつの論文を書き起こす予定だ しまう 仕舞う 【慣用句】  胸[心]にしまう[〜を]:自分の心の中だけに入れて   外に出さない。例 洋子は悲しみを胸にしまって再   び元気よく働きだした ▽さて、「急ぐ」の例を見てまず思うのは、【語形】の欄は要らない、というこ とです。このような動詞辞典を使おうとするような人なら、日本語学習者でも、 この程度の活用情報は不要でしょう。「五段」か「一段」かを示せばすむことで す。 「−eru」「−iru」で終わる五段動詞を注記する、また、同形の五段動詞がある 一段動詞にも注記する、というようなことは必要かもしれません。 百歩譲って、どうしても、ということであれば、1行で示せばいいでしょう。 【語形】いそがない・いそぎ・いそいだ・いそげば・いそごう タ形とテ形の両方を示す必要はありません。同様に、タラ形も。それよりは命令 形か意志形を示したほうが有用でしょう。それぞれの活用形名を示す必要もあり ません。これらのことは、日本語教師、および初級を終えた日本語学習者にとっ ては常識でしょう。 ずいぶん細かいことにこだわっているようですが、辞典というのは紙幅と情報量 との戦いだと思うのです。一定の紙幅の中に、どれだけの情報量を、見やすく、 わかりやすく盛り込むか、ということにもっと努力してほしいと思います。(こ の辞典に限ったことではありません。・・・・では、そういうお前の『概説』は その点ではどうなんだ、と言われると、それはまた、いろいろと、、、) 次に、文型の中の「{が/は}」という書き方について。これも不要だと思います。 ほとんどすべての動詞について、「が」が基本で、「は」は主題化の結果だとい うことがいえるので、一つ一つの動詞について記述する必要はありません。 そもそも、「が」は格助詞で、「は」は主題助詞(副助詞/係助詞)だというこ とを知らないわけではないでしょう。 編者の中で、日本語を専門とする研究者は仁田義雄だけですが、{が/は}という 書き方はやめようと提案しなかったのでしょうか。 【文法情報】の中で、繰り返し(2)《文型a》が特別扱いされています。この「心が急ぐ という形は、どう見ても他の文型とは性質が違うので、「慣用表現」あるいは「慣用的 連語」というようなまとめ方で別扱いしたほうがいいのではないでしょうか。そして、 そちらで、文法的な制限について述べれば、「文法情報」の中で繰り返し言及する必要 がなくなり、「文法情報」の欄がすっきりするでしょう。 次に、「急ぐ」という動詞の使われ方、特に文体について。 「解決を急ぐ」とか「道を急ぐ」などという表現は、書きことばで使われる表現です。 では、話しことばでは何というか。「急いで〜する」でしょう。「急いで解決しようと する」「急いで行く」というのが、話しことばとしてふつうの言い方です。 「動詞用法辞典」は、その動詞がどういう文型をとるか、どういう文法的性質を持って いるかとともに、どういう文体で使われるか、他の言い方としてどのようなものがある かを示すべきでしょう。 とくに、「急ぐ」のように、「急いで〜する」という副詞的な使い方が非常に頻度の高 い場合、それを明記する必要があります。 【類語】について。「せく、はやる、あせる」という語を出しても、それがこの辞典の 中でとりあげられていないなら、無意味です。どういう文型をとり、どういう使いわけ があるのかということが示されないなら、単に「意味が近いことば」とされるだけで、 使い方が分かりません。 「類義表現」ということでより広くとるなら、上の「急いで〜(しようと)する」とと もに、意味の解説にも使われている「早く〜しようとする」もいいでしょう。それらと 「急ぐ」がどう違うのかが示されれば、利用者にとって有益な情報になるでしょう。 (この場合は、単に「文体の硬さの違い」を指摘するだけでもいいのではないでしょう か。)
◇巻末の「付録」について
 巻末に「付録」として、   動詞活用表[口語]    形容詞・形容動詞活用表[口語]    助動詞活用表[口語]   常用漢字表    常用漢字表[付表]    人名用漢字一覧 が付けられています。  この活用表が面白いものです。和洋折衷というか、国語学(国文法)と言語学の折衷 的な分析のしかたをしています。  活用形として「未然・連用・終止・連体・仮定・命令」の6つの語尾を考えるところ は、国文法そのままですが、「語幹」は言語学的に、たとえば「立つ」なら、 「tat」までで、未然形の語尾が「a・o」となっています。「た・と」ではないのです。  では、テ形などはどう扱われているか。驚いたことに、「tat」という語幹の他に、言 わば第二語幹として「ta」があります。その連用形語尾は「t」だけです。国文法の「っ」 にあたるわけです。  この辞典の編者たちはみな言語学者で、国語学者はいないのですが、なぜ「未然・連 用…」なのか、理解に苦しむところです。  それと、「常用漢字表」がここに置かれているのも不思議です。本文の漢字を読むた めのものでしょうか。漢字表があれば日本語は読める、というなら、日本語教師および 日本語学習者は苦労しないのですが。  さらに、人名用漢字表とは! なぜ? なんのために?  あらためて、上の「付録」のリストを眺めてみると、これは、思うに、国語辞典の 付録そのままではないでしょうか。「動詞活用表[口語]」というのは、[文語]の 活用表ももともとはあったから、[口語]という注記が必要だったのでしょう。 そう考えると、「基本動詞用法辞典」に「人名用漢字一覧」が付録として付けられてい ることの謎が謎でなくなるように思います。  それならば、活用表の語幹も、いっそ国文法の活用表そのままのほうが潔かったのに、 というのは、皮肉に聞こえてしまうでしょうか。
◇分析の詳しい例:「あがる」
 この辞典について、批判的なことばかり書きつらねてしまい、心苦しいので、分析が 詳しく、文型が多く挙げられている例を出しておきます。  「あがる」の項で、意味の説明と例文は省略し、文型だけを並べます。 ・あがる 上がる・揚がる (1)−1[人・生き物]{が/は}([所]から)[所]{に/へ}上がる (1)−2[人・生き物・乗り物]{が/は}[所]を上がる (1)−3[物・身体部分・天体]{が/は}上がる (2)[人・生き物]{が/は}[所]に上がる (3)−1[数量・程度・事]{が/は}([位置・数値]から)([位置・数値]   {に/へ/まで})([数値])上がる (3)−2[人・組織・乗り物]は[数量・事]が([位置・数量]から)([位置・   数量]に)上がる (3)−3[人]は([地位]から)([地位]に)[地位]が上がる (4)[人]{が/は}[学校]に上がる (5)[声・音・勢い・評判]{が/は}上がる (6)−1[自然現象・煙]{が/は}上がる (6)−2[効果]{が/は}([物・事]から)上がる (7)−1[証拠]{が/は}上がる (7)−2[名]{が/は}[候補]に上がる (8)−1[作品・活動]{が/は}上がる (8)−2[人]{が/は}[活動]から上がる (8)−3[人]{が/は}[ゲ−ム]で上がる (9)[雨]{が/は}上がる (10)[人]{が/は}[所]から上がる (11)[催し・経費・時間]{が/は}[金額]で上がる (12)[人]{が/は} 上がる (13)[供物]{が/は}[神仏]に上がっている (14)[食物]{が/は}揚がる ・あがる 上がる (1)[人]{が/は}[食物]を上がる ・あがる 上がる (1)[人]{が/は}([所]に)[事]に上がる ▽2つめの「あがる」は「食べる・飲む」意で、3つめは「訪問する」意の「あがる」 です。  さらにこれに「文法情報」と「慣用句」などがくわわり、ぜんぶで3ページ近くに なります。  こういうところを見ると、よくやっているなあ、すごいもんだなあ、と感心します。 もちろん、これも細かく見ていけば、いろいろと文句を付けたくなるようなところも あるかもしれませんが、とにかく、これだけの詳しさで文型を考えていこうという姿 勢と、それを560ページにわたって続けていく持続力は尊敬しないわけにはいきません。
◇「ハ・ガ文」と「{が/は}」という表記について
 上で、「{が/は}」という表記をすべての動詞について示す必要はないとい うことを述べました。その時に頭の中にあったのは、「ハ・ガ文」あるいは 「ハ・ガ述語」と呼ばれる動詞の場合はどうするのか、という問題でした。 「わかる」や「できる」などの動詞の場合は、主体に「に」が出てきます。そ こはどう表されているのでしょうか。それぞれの動詞の、該当する文型といく つかの例文を引用します。 「わかる」では、   ([人・組織](に)は)[人・物・こと・時・所]{が/は}分かる    私たちは父の居場所が分かった・秘密が母に分かってしまった という形で主体が示されています。「には」または「は」だということです。  しかし、この文型表示では、そこに挙げられている例の「母に」の形が説明 できません。「に」「は」「には」のどれもがあり得るような表示にしなけれ ばなりません。  さらに、      彼だけがそのことを分かっていた。 の「が」もあり得ますし、対象を表す「が」は「を」で言う場合もあります。 「を」のほうは注記の形でもいいと思いますが、主体の「が」は文型の中に入 れるべきでしょう。  そうすると、(名詞をNで表すことにすると)    Nに/が Nが わかる の文型としておいて、「が → は」と「に → は/には」に関しては「主題化」 の規則として説明するという、これまで一般にとられてきた形で説明するのが いちばん正確で、かつ簡単な説明だということになります。  次に、「できる」を見てみましょう。      [人・生き物]{に/が/は}[事]ができる    姉は数学がよくできる・お前にこんなことができるわけがない  ここでは、「に/が/は」が並列に並べられています。これでは、   それは彼にはできない。 という形が導けません。また、「それは」のほうはどうするのでしょうか。 「わかる」では、「{が/は}分かる」だったのですが、「できる」では、「が できる」だけになってしまいました。「(私は)それはできるよ」というのは、 ごくふつうの言い方です。 次に、「要る」の文型表示は、    [人・組織・物・事]{に(は)/は}[人・物・事]が要る です。ここでは「に」「には」「は」が並べられています。でも、疑問語を使 った疑問文を考えると、    どの店にクレジットカードが要るんですか。 よりも、       どの店がクレジットカードが要るんですか。 のほうがいいでしょうから、やはり「が」も必要です。   また、「物が要る」だけではなく「物は要る/要らない」もあり得ます。  次に、「見える」。驚いたことに、ごくふつうの「能力」の意味の文型・例 がありません。       [人・生き物]は[目]が見える  という文型があるだけです。    あなた(に)は、あんな遠くの字が見えるんですか。 という「人(に)は 物が 見える」という文型がありません。なんということ でしょうか。     「聞こえる」には次の文型が立てられています。    [音・言葉・話]{が/は}([人]に)聞こえる  しかし、これでは「人は」「人には」という形がないことになります。    彼(に)は小さな音が聞こえない。  どうも、この辞典の「ハ・ガ述語」に関する記述は一貫性を欠いていて、信用 できないようです。  というか、この辞典の編者は「主題化」ということが分かっていないようです。 (つづく)
 

§4.13 「理想の動詞用法辞典」について

さて、これまで、    小泉保他編『日本語基本動詞用法辞典』大修館書店(1989) について、いろいろと過大な要求をしてきたわけですが、では、動詞用法辞典に望まれ ることはどんなことか、理想的な動詞辞典とはどういうものなのかを考えて見ます。 [1]動詞のとる補語の型、動詞文型をわかりやすい形で提示する  これは言うまでもないでしょう。『日本語基本動詞用法辞典』は、この点で実に詳し く、網羅的に文型を立てているのですが、専門的過ぎて、一般の学習者(中〜上級)や 日本語教師にとって多少使いにくいものになっている恐れがあります。 もう少し、わかりやすく、というのは、かなり身勝手な注文かもしれませんが、使用者 としてはそう思うところです。 [2]文型として補語の名詞の特徴を挙げるだけでなく、実際の名詞の例を多く提示する  使用者にとって、非常に有用なのは具体的な例の多さです。『日本語基本動詞用法辞 典』も例を多くあげているのですが、高望みの使用者としては、さらに多くの例がほし いものです。  いわゆる「連語」として、「名詞+動詞」の例が多くあれば、実際の使用の助けにな ります。動詞辞典の項目なのですから、動詞のほうは固定されています。つまり、共起 できる名詞をできるだけ多く示すことが望まれることです。  その具体的な実現例は、    小内一『究極版 逆引き頭引き日本語辞典 名詞と動詞で引く17万文例』     講談社+α文庫(1997) という本で見られます。  これは個人の著作で、驚異的な本です。たとえば、「愛する」という項目に、   あいする【愛する】動 頭のよさ。兄。意気。遺児。異性。馬。海。奥さん。夫。    弟。男。女。学才。学問。郷土。国。芸術。孤独。子供。酒。仕事。自分。主人。    純朴。少女。植物。心情。 のように、その動詞のとりうる名詞がずらっと並んでいるのです。(上の例はそのほぼ 半分です。)  名詞の場合は、   あいじん【愛人】奪う。援助する。かくまう(=人や物を安全なところに隠す)。    隔離する。囲う。恋する。慕う。訪ねる。つくる。手放す 【愛人にする】動     女。若い子。若い女性。 のように、その名詞をとる動詞が並べられています。  これは、「動詞文型」については何も情報がありません。そのようなことを目的とし た辞典ではありません。日本人が、文章を書くときの参考にするための本です。著者は、 校正を仕事として、その参考のために用例を集めたということです。  このような情報と、『日本語基本動詞用法辞典』の文型についての情報が、一冊の本 で示されているなら、非常に有用なものになるだろうと思います。 [3]必須補語だけでなく、副次補語も、有用と考えられる場合は示す  「動詞文型」というと、必須補語を示すのが役割であるわけですが、文型どうしの対 立を示す場合は、副次補語もあったほうがいいと思われます。  たとえば、存在文の    所に ものが ある    教室の教卓の上にテストがある に対して、    所で ことが ある    教室でテストがある の対立は、日本語教育の初級で提示されるものですが、ここの「所で」は、動詞文型の 観点からは副次補語であり、文型としては言及されないものです。  また、「起きる」は、文型としては「人が 起きる」だけでしょうが、実際の文では、    彼女は 起きます。 ではなくて、    彼女は(朝)7時に起きます。 のような例文で使われるのがふつうでしょう。  この場合、文型として    人が 時に 起きる とすべきとまでは言えませんが、「時に」とともに使うことが多いことを文型の説明の 中で触れ、その例を意識的にあげたほうがいいのではないしょうか。    理論的な文型のとらえ方と、日本語教育に生かすために文型を考えていくことの違い は、これ以外にもありそうです。 [4]名詞(補語)だけでなく、副詞・連用修飾成分も特に例としてとりあげる  「用法辞典」とは、実際の使われ方を示すことが目標なのですから、理論的な研究の 成果として必須補語などを示すだけでなく、実際にその動詞が使われるときの環境、つ まり、どんな副詞、連用修飾成分が共起するのかということも、多くの例で示す必要が あります。  たとえば、「愛する」なら、    心から、深く、本気で  ずっと、永遠に、いつまでも、死ぬまで    ひそかに、人に知れないように    お互いに(〜合う)  また、「食べる」なら、    よくかんで、じっくりあじわって、おしゃべりを楽しみながら  「疲れる」なら、    死ぬほど、立ち上がれないほど、口もききたくないほど 等々、よく使われる表現があり、それらを多く示すことは日本語学習者にとって大いに 助けになるでしょう。  日本人にとっては、「決まり切った表現」「使い古された言い回し」と感じられるよ うなものであっても、日本語学習者にとっては未知の表現であるので、提示しておく必 要があります。 [5]動詞に接続する補助動詞などにも配慮した例文を使う  『日本語基本動詞用法辞典』では態やアスペクト(テイル・テアル形)の例文をのせ ています。このような動詞に接続する形式に関する情報も重要なものでする。同辞典に は、「テイク・テクル」についての情報は示されていませんが、時間の中での変化を表 す動詞は、「テイク・テクル」とともに使われることが多いので、それも示しておくと いいでしょう。    増える・減る  太る・やせる  伸びる・縮む  変わる    増えていく  太ってきた  変わっていく  移動の動詞もその方向性を示す「テイク・テクル」とともに使われます。    入る・出る  上る・下る  流れる  歩く・走る    また、「忘れる・落とす・壊す」などは「テシマウ」とともに使われる可能性が高い と言えるでしょう。  このような動詞は、例文で実際に使われる形を示しておくと、使用者には便利です。 [6]自他の対応を文型・意味の面でもはっきり示す  動詞の自動詞・他動詞の対は、形態的な面で注目されますが、その意味・文型の対応に ついても注意が必要です。  例えば、「育つ」は対応する他動詞「育てる」があります。『日本語基本動詞用法辞 典』の「育てる」の文型は、「育つ」の文型と対応しています。しかし、すべての点で対 応するわけではありません。  「育つ」は、自発的な意味を持ち、「すくすく」や「ぐんぐん」といった副詞と共起 しますが、「育てる」は主体の意図的な行動なので、このような副詞と共には使えません。     子供がすくすく育つ。     稲がぐんぐん育つ。    ×親は子供をすくすく育てる。     ×稲をぐんぐん育てる。  また、「合う・合わせる」は、    ネクタイの色がスーツに合っている    私はネクタイの色をスーツに合わせる のような文型の対応がありますが、「答えが合う・答えを合わせる」では意味のずれが あります。    この答えは合っている    模範解答を見て、答えを合わせる  このような細かい点をできるだけ指摘しておくことが、動詞用法辞典には求められる のです。 [7]項目の選び方  さて、これまでは動詞の文型やその文型の立て方、その例の出し方などについて述べ てきましたが、そもそも、どういう動詞を項目として選ぶのかという問題を考えてみま す。  項目数は多いほど、つまりできるだけ多くの動詞がとりあげられていたほうがいいの は当然ですが、いくら「理想の動詞用法辞典」とはいえ、現実的な大きさを考えなけれ ばなりません。  基本的な動詞をとりあげ、くわしく解説したほうがいいでしょうから、国語辞典の見 出しとなるような動詞すべて、というわけにはいきません。  500なり、1000なりの動詞を選んで、ということになります。基本語彙の調査は、各種 ありますので、それらを参考にして、基本的な、重要な動詞を選びます。 7-a 複合動詞  ここで一つ問題になりそうなことは、複合動詞のあつかいです。複合動詞を独立項目 として立てるか、あるいは、その構成要素の動詞のところに付随させるか。  『日本語基本動詞用法辞典』は、後者の処置をしています。たとえば、「取る」の項 目に、次のような多くの複合動詞をのせています。    取り合わない・取り上げる・取り扱う・取り入る・取り落とす・取り返す・取り    かかる・取り決める・取り組む・取り消す・取り込む・取り仕切る・取り締まる    ・取りそろえる・取り立てる・取り付く・取り次ぐ・取り繕う・取り直す・取り    なす・取り払う・取り巻く・取り乱す・取り結ぶ・取り持つ・取り寄せる  なお、「取り替える」だけは独立した項目としています。それはどうしてなのか、分 かりません。  目次(本文細目)を見る限りでは、そのほかに構成要素に分けられるような動詞はほ とんどありません。「受け取る」「思い出す」「繰り返す」「出掛ける」「引っ越す」 「引っ張る」「見付ける」ぐらいです。これらの多くは、「一語」として認められてい て、その要素を意識することの少ないものです。「見付ける」を「見る+つける」だと 考える人はあまりいないでしょう。この中では、「受け取る」がいちばん二つに分けや すいほうだと言えるでしょうか。  上の「取る」の多くの複合動詞の中で、「取り替える」だけを別にした理由は、やは りよく分かりません。  話を元に戻して、では、なぜこれらの複合動詞を「取る」の元に、小見出しとしてお くのか。「取る」の意味用法を補うことになるからでしょうか。「取り上げる」「取り 払う」などは、「取る」の意味にある意味を加えたような動詞だと言えるかも知れませ ん。    机の上の写真を取った。    机の上の写真を取り上げた。  しかし、「取り扱う」やその他多くの複合動詞は、「取る」よりも、後項の動詞の意 味が利いているように思います。    割れ物を取り扱う。    割れ物を扱う。    割れ物を取る。  その意味では、「取り扱う」は「扱う」のところで参考にされるべき複合動詞だと言 えます。 7-b スル動詞  複合動詞よりももっと大きな問題がありました。「勉強する」のようなスル動 詞をどの程度あつかうかという問題です。  多くのスル動詞は和語の動詞よりも使用頻度が低く、書きことば的です。例え ば、「教える:教育する、建てる:建設する、食べる・食事する」などなど。  ただし、「勉強する」のように、「学ぶ」よりも一般的に使われるものも少数で すがありますし、他の和語では言いにくいものもあります。「洗濯する」は「洗 う」では置き換えられません。「シャツを洗濯する」は「シャツを洗う」でもい いわけですが、「昨日は雨が降って洗濯できなかった」は「洗う」では言いにく いでしょう。「教える」と「教育する」にもそういう問題がありそうです。  また、使用頻度が低いとしても、あるレベルになれば、かなりの数のスル動詞 が必要になります。それはどのくらいの数になるか。これは、和語動詞以上に選 び方が難しいでしょう。  『日本語基本動詞用法辞典』には、2割強のスル動詞が選ばれています。(728 語の中の164語)その数は適当かどうか、どう判断すればいいでしょうか。もちろ ん、どのようなスル動詞が選ばれているのか、がまず問題ですが。   ここで考えておかなければならないことは、和語動詞とスル動詞の意味的な対 立・相補的な関係がどうなっているかということです。上にも出したように、「教 える:教育する」「食べる:食事する」「建てる:建設する」のように、意味の 広い和語動詞と、より細かい意味を表すスル動詞との使い分けは、日本語学習の 中上級レベルの大きな学習事項です。  「動詞用法事典」としては、それぞれを別個に記述すればいいというものでは なく、ある和語動詞にどのようなスル動詞が連なっているか、ということの記述 も必要でしょう。それは、和語動詞の「類語」とは関係のあり方が違うものにな ると思います。 [8] 表記の問題  日本語の学習辞典は、表記という大きな問題を常に抱えています。ある単語の 例文を書く際に、どの程度の漢字の学力を前提としていいのかは、答えのない問 題です。  ローマ字表記のことはここでは考えません。「動詞用法辞典」の予想される使 用者は、いちおう、かなを習得し、ある程度の漢字が読めるものとします。   しかし、「ある程度」とはどの程度か。  初級では300〜600字くらいでしょうか。動詞の用法辞典を使おうというのです から、初級の漢字は習得していると考えても、無理な要求ではないでしょう。中 級ではどうか。1000字近く? しかし、ここで問題なのは、どの「300字」あるい は「1000字」なのか、です。  さらにまた、難しいのは一つ一つの漢字以上に、その使われ方、熟語としての 読み方、です。それは、どの漢字かを決めればすむという問題でもありません。  例 入る:立ち入る 出す:見出す(ただし、「いだす」は表外の読み)  『日本語基本動詞用法辞典』は、「急ぐ」の例で見たように、けっこう多くの 漢字を自由に使っています。「付録」として常用漢字表、そして人名用漢字表ま でのせています。  この辞典の想定された利用者は、日本人(日本語教師)、あるいはかなり上級 の学習者なのでしょう。    常用漢字、つまり通常の表記にしていいことにすれば、悩むことはありません。 新聞と同じような書き方をすればいいわけです。学力がそこに至らない学習者が 使うことを予定した辞典はどうすればいいか。  一つの解決法は、総ルビというやり方です。そう決めてしまえば実行するのは 簡単ですが、手間あるいは経費がかかるかもしれません。  (私はまったく無知なのですが、自動的にルビを振ってくれるような便利なソ フトがあるのでしょうか。)   (つづく) §4.14 動詞文型調査 動詞文型を動詞一つ一つについて考えてみようと思います。  別ファイルになります。
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§4.15 『現代日本語文法2 格と構文 ヴォイス』 (2009)

 7冊本の大きな記述文法の1冊で、格とヴォイスの巻です。  その中の動詞文型を書き抜いてみました。 「第1章 格と構文の概観」 第2節 文型  第1節 格    名詞と述語とのあいだに成り立つ意味関係を表す文法的手段を格という。これらの   意味関係は、名詞につく格助詞によって表される。      (p.4)  第2節 文型   述語にとって必須の名詞がとる格の組み合わせを文型という。 (p.13) 動詞の文型 (p.13-20) 0項動詞 [φ]文型   現象型:時雨れる、停電する、吹雪く、春めく、など 1項動詞 [が]文型 1)主体動作型:歩く、起こる、踊る、泳ぐ、泣く、走る、笑う、など 2)主体変化型:明ける、壊れる、倒れる、とれる、開く、割れる、など 3)状態型:曲がっている、優れている、など 2項動詞 [が、を]文型 1)主体動作(対象無変化)型:たたく、食べる、ノックする、読む、など 2)主体動作(対象変化)型:温める、壊す、倒す、割る、など 3)産出型:(事件を)起こす、選ぶ、作成する、建てる、掘る、など 4)関係(意味表示)型:表す、意味する、帯びる、指す、示す、など 5)心的活動・態度型:覚える、思い出す、嫌う、尊敬する、励ます、など 6)言語活動・知覚型:聞く、話す、見る、など 7)移動目標型:訪れる、狙う、など 8)空間移動・時間経過型:(町を)歩く、通る、(道を)走る、(空を)飛ぶ、など              /(一日を)送る、過ごす、など [が、に]文型 1)主体動作(方向性)型:話しかける、(試験に)落ちる、からむ、など 2)主体移動(着点明示)型:(地面に)落ちる、達する、入る、など   3)主体変化型:変わる、なる、戻る、など ([が、から、に]文型も) 4)関係型:関係する、一致する、匹敵する、値する、まさる、など [が、と]文型 1)相互動作型:結婚する、けんかする、交際する、付き合う、別れる、など         会う、キスする、など([が、に]文型も) 2)主体変化型:変わる、なる、など [が、に]文型より書きことば的 3)関係型:異なる、違う、など [が、から]文型 1)主体移動(起点明示)型:出る、取れる、など 2)構成型:できる、なる、など [に、が]文型 1)存在型:ある、いる、存在する、たまる、など 2)所有型:ある、いる、など 3)能力・知覚型:可能動詞、聞こえる、できる、見える、わかる、など 3項動詞 [が、に、を]文型 1)対象移動(着点明示)型:移す、送る、やる、渡す、など   +起点「から」 4項動詞にも 2)対象移動(起点明示)型:教わる、聞く、もらう、など   +起点「から」 [が、から、を]文型にも 3)対象接触型:あてる、かける、飾る、据える、取り付ける、塗る、など [が、を、に]文型   対象変化型:あらためる、変える、する、直す、戻す、リサイクルする、など [が、から、を]文型 1)対象移動型:そらす、出す、遠ざける、はずす、離す、など 2)産出型:産む、選ぶ、選出する、作る、など 4項動詞 [が、を、から、に]文型 1)対象移動型:上げる、動かす、移す、下げる、選ぶ、など   ([が、から、を]文型か、[が、に、を]文型として用いることが多い) 2)対象変化型:あらためる、変える、直す、訂正する、など   ([が、を、に]文型として用いることが多い) ▽まとめると  さて、上の文型を「を」があるものとないものに分けると、次のようになります。   2項動詞   3項動詞           4項動詞   が      が、を   が、に    が、に、を / が、を、に   が、と   が、から   が、から、を         が、を、から、に   に、が  最後の「に、が」は、「ある、いる、できる」などなので、「を」がないことは  納得できます。  しかし、3番目の「が、と」の文型は「を」をとりえないものでしょうか。  「が、と、を」あるいは「が、を、と」という文型です。少し考えれば、あること  にすぐ気がつくと思うのですが。(こういう見方を「体系という観点から考える」  と言うのです。)  この「第2節 文型」は、「第1章 格と構文の概観」の中の節であるわけです  が、次の「第2章 さまざまな格」の「第3節 相手を表す格」の中に、「と」が  あります。その「基準としての相手」という中に次の例文があります。    弟と趣味が違う。    電話に出た姉を母と間違えた。  (p.49)  この2つ目の例文は、「を、と」の文型の例になります。  次のページの「「に」と「と」の比較」という中にも、    友達{と/に}卒業旅行の行き先を相談した。  という例があります。これは「と、を」の形ですが、「を、と」でも言えます。  さらに、p.103に「内容」という「と」の格があります。    あの方は恩師と呼べる。    2辺の長さが等しい三角形を「二等辺三角形」という。    競技開始に遅れた選手を失格とみなす。     飼い猫を「ミミ」と名付ける。    日本国籍を有する人を日本人と定義する。    円周率を3とする。  これらはすべて「を、と」の文型の例文です。     以上は、同書の中で見つけた「が、を、と」文型の例ですが、そのほかにも次の  ような例文が考えられます。    男を女と分ける      右手を左手と重ねる    残額を繰越金とあわせる    砂利をセメントと混ぜる    古い部品を新品と取り替える    友人と予定を打ち合わせる    弟とおもちゃを交換する      仲間と力を合わせる     というわけで、「3項動詞」の文型として、「が、を、と」の文型を立てるべきだ  と思います。 [補説§4]の最初へ 4.動詞文 へ 
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