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34. 命令表現

34.1 命令形        34.2 否定命令「V−な」 34.3 V−なさい 34.4 V−こと 34.5 V−ように 34.6 平叙文(+のだ)  命令とは、相手に何かをすることを強く要求する表現です。相手がそれを断 わる自由を認めない、強い言い方です。ですから、実際に使われる場面は限ら れています。上下関係のはっきりした場合、親子、親しい友人の間など。  命令の表現は初級日本語ではあまり扱われません。学習者が使う必要が少な いから、ということでしょう。  相手に何かをさせるための言い方は、命令以外にもいろいろあります。「〜 て下さい」のような、本来は「依頼」を表わす表現が、実質的には命令の意味 合いで使われることもあります。  と言うより、もともと命令と依頼はつながったものです。どちらも、聞き手 にある行動をとることを要求しているのです。ただ、話し手と聞き手の関係、 断れる可能性などの違いがあるだけです。その証拠に「ください」という形は、 「くださる」の「命令形」です。  命令を表す表現には、動詞の命令形、V−なさい、V−こと、V−ように、 などがあります。また、「−のだ」を動詞の基本形につけて命令の意味を出す こともあります。否定命令には特に「V−な」の形があります。  ではまず、最もはっきりした形、動詞の命令形から。

34.1 命令形

     
 命令形は、初級段階ではあまり使われませんが、技術研修生などには必要な 表現かもしれません。  命令形は動詞の活用形の一つですが、使用頻度の少なさと、強いムードを持 っている点で、他の活用形よりもかなり後で提出されます。  命令されて行うことのできる動作は意志動作なので、ふつう無意志動詞に命 令形はありません。     ×うっかりしろ  ×間違えろ  ×できろ  ×似ろ  

  命令形の作り方

    五段動詞 基本形の「−u」を「−e」に代える       書く→ 書け  読む→ 読め   折る→ 折れ     一段動詞 語幹に「−ろ」をつける       見る→ 見ろ  寝る→ 寝ろ               (「見よ、寝よ」は古い形)       不規則動詞                                 来る→ 来い  する→ しろ (「せよ」は古い形)  命令形の例外は「活用形」のところでも触れましたが、次の四つの敬語動詞 です。     くださる   → ください     なさる    → なさい     おっしゃる  → おっしゃい いらっしゃる → いらっしゃい  言うまでもなく、「V−てください」は依頼の文型で、「V−なさい」はす ぐ後で扱う命令の文型として使われます。「いらっしゃい」は人を迎えるとき のあいさつことば、商店の呼び声にも使われます。  命令形はそのまま使うとかなり強い言い方です。はっきりした上下関係がな いと使えません。友達同士などの場合は「よ」をつけます。「よ」をつけると 少し感じが柔らかくなります。親しさが出るからでしょうか。      明日必ず来い。      明日必ず来いよ。      ほら、あそこを見ろ。      ほら、あそこを見ろよ。  命令形には「命令」以外の用法もあります。例えば、      ウソおっしゃい!あんたがやったんでしょ! の「ウソおっしゃい」は「うそを言え」という意味ではなく、「うそを言うな」 という意味です。      バカも休み休み言え! というのも、「馬鹿なことを言うな」という意味です。この用法は「言う」あ るいはその敬語に限られるようです。 cf. ×バカしゃべれ!  それから、「V−てみる」の命令形は、      子どもに手を出して見ろ、ただじゃおかねえぞ。      そんなこと、一言でも言ってご覧なさい、彼女怒り狂っちゃって大      変だから。 という形で、やはり禁止あるいは警告の意味合いで使われます。「てみる」の 「試しに〜する」という意味合いが生きているのでしょう。  また、慣用的に複文の文型として固まった「〜にせよ/しろ、〜」という形 があります。「〜にしても」の硬い表現です。      たとえミスがいくつかあったにせよ、全体としては成功だった。      どんなに努力したにしろ、力が足りなかったのは明らかだ。      アメリカにしろ、ソ連にしろ、核兵器に脅えていたのだ。      

34.2 V−な:否定命令

     基本形に「な」をつけるだけですから、形は簡単です。「よ」を付けると、 少し柔らかくなることは、命令形と同じです。       こっちへ来るな。      そんなことを言うな。      この手紙を見るなよ。  否定命令の場合は意志的でない動作にも付けられます。      ぼんやりするな。      うっかり切符を落とすなよ。 うまい話にごまかされるなよ。 この形は、終助詞「な」と同じなので、終助詞の他の用法との区別が重要で す。      お前もいっしょに行くな? (確認)      よくそんなことを言うよなぁ。(感嘆)  確認のほうはイントネーションが上昇調になります。感嘆の「な」は少し長 く、「なあ」になりやすいのですが、学習者にとってこの聞き分けは難しいで しょう。      びっくりするなぁ。  まあ、イントネーションと表情でわかるでしょうが、小説の中の会話だと難 しいかもしれません。なお、こちらの「な」は、「よ」とともに使われる場合、 「〜よな(ぁ)」となります。で、否定命令の「V−な」に「よ」「な」が付く こともあります。      一人で行くなよな。俺も誘ってくれよな。

34.3 V−なさい

   この動詞の形は中立形です。不規則動詞も中立形で「しなさい・きなさい」 です。「なさい」は敬語動詞「なさる」の命令形です。「お−V−なさる」の 「お」がとれた命令形です。「お」を残した形は丁寧な(柔らかい)言い方に なります。        お入りなさい。      そこにお掛けなさい。   「V−なさい」は「丁寧な命令」などと言われることもあります。親が子供 に対して、先生が生徒に対して使ったりします。      早く食べなさい。      これをもって行きなさい。  あいさつの「お休みなさい」は「休む+なさい」の形から来ています。  「見る」「いる」「来る」は「見なさい」「来なさい」「いなさい」の形は ありますがそれに「お」を付けることはできません。      ×お見なさい   ×おいなさい   ×お来なさい  そのかわりに、尊敬語の「御覧になる」「おいでになる」の尊敬動詞の部分 に「なさい」が付けられます。      あれをごらんなさい。      しばらくここに/こっちへ おいでなさい。  さきほどの「お休みなさい」も「×お寝なさい」の代わりに「寝る」の尊敬 語「お休みになる」を使った言い方だと言うことができます。  また、「なさい」を省略した「ごらん。」「おいで。」「お休み。」もよく 使われます。「食べる」の場合は「お食べなさい」「お上がりなさい」のどち らも使います。もちろん、「お上がりなさい」のほうが丁寧です。  「お上がりなさい」は、「家に上がる(入る)」の意味でもよく使われます。  「〜なさい」には「よ」のほかに「ね」も付けられます。どちらも少し女性 的な言い方になります。      食べなさいよ。      必ず行きなさいね。

34.4 V−こと

 指示や規則などでは「V−こと」という形で命令に近い意味を表わします。  命令は、「今、あなたは〜」という個人的・個別的な意味合いのものですが、 「〜こと」は一般的な規則という感じがあります。  書かれることが多く、話す場合は規則を読み上げている感じです。否定の 「V−ないこと」の形もあります。      本を汚さないこと。本を借りたら必ず返すこと。(図書室)      えー、8時までに帰ること。夜遅く騒がないこと。わかったか?      (修学旅行の旅館での注意)   そのあとに「〜が大切だ、必要だ」などの表現が省略されていると考えられ ます。

34.5 V−ように  

       これも指示を伝えるときなどに使われます。「〜こと」に比べると、話しこ とば的です。否定を受けることもできます。       えー、5時までにここに戻ってくるように。では、解散!      くれぐれも言っておくが、他校生とけんかしないように。 そのあとに「〜しなさい」を補って考えればいいでしょう。

34.6 基本形/ナイ形(+のだ)

  
 動詞の基本形やナイ形に強い下降調のイントネーションを付けると、そのま ま命令を表わすことができます。       早く座る!      文句を言わない!  否定形に「か」をつけて疑問文の形にする場合もあります。指示・命令に従 わない相手を叱るような言い方です。イントネーションは強い下降調です。      早くしないか!       いい加減にやめないか!  「〜のだ」をつける言い方もあります。      早く座るんだ!  これらの命令表現は、今現在のことを言います。      いいな、明日も明後日も必ず来るんだぞ。 のように将来のことについて言う場合は、「明日も必ず来いよ」に比べて、内容 の確認という感じがします。   「〜の」だけの形は女性に多い言い方です。       もうわかったから、泣かないんだよ/泣かないの。       否定は「〜のだ」の前後で可能です。      お箸で遊ばないの!      そんなこと、言わないんだよ。      そっちへ行くんじゃない!      こんなことは二度とするんじゃないよ。  否定が後に来る「〜の/ん じゃない」のほうが強く感じます。      参考文献 村上三寿1993「命令文−しろ、しなさい−」『ことばの科学6』むぎ書房 森山卓郎・安達隆一 19 『セルフマスターシリーズ6 文の述べ方』くろしお出版 尾上圭介1979「そこにすわる!」『言語』8-5 大修館