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補説§54
  §54.1 「やら」と「だの」
  §54.2  日本語表現文型(森田・松木)目次から
§54.1 「やら」と「だの」
「やら」と「だの」
1 まず、名詞を受ける場合と、動詞・形容詞を受ける場合を別に考える。
   これやらあれやら、いろいろある。
   これだのあれだの、いろいろある。
   こうするやら、ああするやら、大変だった。
   こうするだの、ああするだの、大変だった。 
2 名詞を受ける場合は、多くのものの中から例をあげる、という点で、かな
 り用法が重なる。(はっきり違いが出る例はあるか?)
    お寿司だの天ぷらだの鉄板焼だのを食べさせていただいた
    寿司やら天ぷらやら、そうした海鮮料理を思い出す人が多いでしょう
    機械やら雑誌やらがごちゃごちゃ置かれている
    恐喝した金をゲームだのパチンコだのに使っていた
    犬やら猫やら飼っている
    犬だの猫だの飼っている
 「だの」のほうが「否定的ニュアンスを伴う」という指摘 
3 動詞・形容詞を受ける場合
 Y「だの」に置き換えられない/置き換えにくい 「やら」の例
    うれしいやら悲しいやら何とも複雑な気持ちだ。
    九州で飲むやら食うやらで体重は70の大台に迫るも例年のごとく体調
   を崩しいつもと同じく62,3に落ちつく。 
 D「やら」に置き換えられない/置き換えにくい 「だの」の例
    今ごろになって行けるだの行けないだのと言われて困ります。
    嫌いだの好きだのなんて言わないで何でも食べなさい。
    食べただの食べてないだのごちゃごちゃ言ってたらしいんです。  
 
 A両方使えそうな例
    妹は、「寝てないやら金が無いやら」と文句ばかり言っている。
    こっちへ行けだのあっちへ行けだの、全く役所という所は不親切だ。
    寂しいだのつらいだのと不平ばかり言っている。
      下の二つは「やら」では不自然? 
 次の例は「やら」を使っているが、かなり不自然。
    今日は最悪のコンディションだとやら、寒いとやら、込んでいて嫌だ
   とやら、文句を言っている。 
4 暫定的分析
4-1 名詞を受ける場合
 描写している事実としては違いはない。
 強いて言えば、
  「AやらBやら」は、「いろいろあり、これと言って確定できない」
  「AだのBだの」は、「このような、同種のものをたくさん」
 という意味合いがあるか。
 「だの」は丁寧さに欠けるところがある。あまり勧められない言い方。
 どちらにせよ、否定的な含みが出る場合が多く、気をつける必要がある。
    犬やら猫やら、かわいいペットをたくさん飼っている。
    犬だの猫だの、かわいいペットをたくさん飼っている。
 というとぴったりしない。
    犬やら猫やら、やたらたくさんペットを飼っている。
    隣の家は、犬だの猫だの、やたら飼っていて、うるさくてかなわない。
 ぐらいのほうがぴったりする。 
4-2 述語を受ける場合
 「だの」は否定的な判断/言動を受ける。その判断をした人間に対する批判
 的な含みがある。  
 同種の、否定的なことをあげる場合と、反対のことばを並べる場合がある
    寂しいだの辛いだの
    好きだの嫌いだの
 後者は、「勝手な理屈を付ける」という点で同種のものと考えられる。 
 「やら」は、同種のことがたくさんある、という意味合い。特に否定的な含みはない。
    ほめられるやら、賞をもらうやら、いいことばかりの一日だった。
 「だの」は否定的。
    ほめられただの、賞をもらっただの、自慢ばかりするからねえ。
 「だの」は誰かの言動についての批評があるが、「やら」は事実を述べる。
 
 「やら」は現在形が基本? 過去のことについても。(すぐ上の例)
   ?ほめられたやら、賞をもらったやら、いいことばかりの一日だった。 
 「だの」は「引用」に近いので、ムードが自由。
    これをしろだの、あそこへ行けだの、命令ばかりしやがる。
    もっと飲もうだの、踊ろうだの、うるさくてかなわない。 
 次の例の解釈。
    妹は、「寝てないやら金が無いやら」と文句ばかり言っている。
 省略された部分があると考える。
    妹は、「寝てないやら金が無いやら(で、今日はとても行けない)」
    と文句ばかり言っている。
 つまり、「やら」は「言っている」にかかってはいない。 
 なお、「〜のやら」という用法がある。不確定を表す。(「文型辞典」くろしお)
    行くのやら、行かないのやら、はっきりしない。
    どこへ行くのやら。
    とんぼつり 今日はどこまで行ったやら(千代女)
 最後の例は「のやら」と見なしたほうがいいだろう。 
5 類義表現の使い分けということ
 実際の使用では、類義表現の微妙な差異にかまわず、どちらもかなり
重なって使われることが多い。(から/ので、ために/のに/ように、
と/ば/たら/なら、らしい/ようだ、なければならない/なくてはい
けない、など) 
 しかし、慎重に書かれた文章では、その微妙な差異を生かして使用さ
れることが多い。
 言語を分析する際は、その両方のことに注意する必要がある。
 すなわち、
  1 同じように使われているから、同じだ、と結論する
  2 違いがあるものを混用するのは、話者の不注意だ
のどちらも正しい分析の態度ではない、と考える。 
  
(続き)
「やら」は、基本的には「いろいろある」ということだけで、「だの」
のように「言う」と特に結びつくものではない、というのが結論です。
「言う」に結びついている例は、「とか」や、「だの」(特に否定的・
批判的な場合)のほうがぴったりします。 
  あっちへ行けやら、こっちに書類を出せやら(といろいろ言われ)、
  役所でたらい回しにされた。(○だの) 
  さびしいやら、つらいやら(で、いろいろ大変なんだよ)とグチを言っている。 
後者も、かっこの中がなければ「だの」のほうがいいでしょう。
逆に言えば、「やら」が使ってある場合は、かっこの中のようなことば
を補って理解しているのでしょう。 
「〜のやら」の例ですが、「うまくいくやら行かないやら」の例以下、
みな「〜わからない」を補うことができるような意味になっています。
「の」が省略されることも多い、ということでしょう。「文型辞典」
も、「(の)やら」とすべきでしょう。 
次の例文について。 
    最近、友達が立て続けに結婚するやらしないやら言い出しました。 
どうもこれはよくわからない文です。
「立て続け」と言うからには、「友達」は複数でしょう。
その人たちが、「結婚する」とか「結婚しない」とか言い出した? 
たとえば、ある女性のグループがあって、その人たちの数人が同じ時期
に「結婚する」と言う。これはあり得ることだと思います。そして、別
の人たちが、「私は結婚しない。仕事に生きるんだ。」とか宣言する。これもあり得ると思います。
しかし、そのような状況を上の例のような文で表現するか。ちょっと変
な感じの文です。
「立て続けに〜し出す」と「結婚する・しない」と「やら」をまとめて
使うことに無理があるのでしょう。 
ある一人の人が、「結婚しようかなー、やめようかなー」と言っているのを、 
   結婚する(の)やらしない(の)やら、どうもはっきりしない。
   結婚するやらしないやら、その時々で違うことを言う。(○だの) 
のように言うことはできます。 
[資料]
§54.2 日本語表現文型(森田・松木)の目次から
A 格助詞の働きをするもの
A-1 資格・立場・状態・視点を示す
として をもって でもって にとって からすると からすれば からして
 からいうと からいえば からいって からみると からみれば からみて
 からみたら
A-2 対象・関連を示す
 について につき にかんして にたいし(て) をめぐって をめぐり 
 にかけて(は・も) にかけると にかけても につけ(て)
A-3 仕手・仲介・手段・根拠・原因を示す
 によって により によると によれば をもって でもって をとおして
 をつうじて にして につき
A-4 時・場所・状況を示す
 において にあって にあたって にさいし(て) のおりに のおりから
 おりに  おりから につけ(て) にして    
A-5 起点・終点・範囲を示す
 からして をはじめ にいたるまで にかけて をつうじて にわたって 
A-6 基準・境界を示す
 をもって でもって     
A-7 割合を示す
 について につき にたいして   
A-8 対応を示す
 によって(は) により によったら によると によらず  
A-9 同格を示す
 との という という といった ところの               
B係助詞の働きをするもの
B-1 定義を示す
 とは というのは     
B-2 主題化を示す
 とは というのは といえば というと といったら とくると ときたら
 となると となれば になると となっては にいたると にいたっては 
 かといえば かというと としては にしてみては にしてみれば としても にし
ても
 にしたって にしろ にしては といっても といえども には におかれ まして
は
C副助詞の働きをするもの
C-1 強調を示す                           
 という といった といって として にしても にして のあまり(に)
  のかぎり のこと(で) ことに(は) ことは とばかり(に) んばかり
C-2 限定・非限定を示す
 にかぎって にかぎり ならでは にかぎらず によらず をとわず   
C-3 添加を示す
 ばかりか にかぎらず のみならず どころか             
C-4 除外を示す
 をよそに                              
C-5 不適合を示す                           
 にもなく になく ながらに                     
C-6 不明確を示す
 ともなく となく とやら                      
D接続助詞の働きをするもの
D1時間的関係
D1-1同時性を示す
  やいなや がはやいか そばから とたん(に) かとおもうと/おもえば
  かとおもったら/おもうまもなく かとまもなく かとみると かとみれば
 とおもうと/おもえば/おもったら とまもなく とおもうまもなく
 とみると  とみれば 
D1-2継起を示す
 うえ(で)  すえ(に) あげく(に) ところ(が) まま(で) なり(で)
D1-3相関を示す
 にしたがい にしたがって につれて                 
D2順接条件
D2-1仮定を示す
 かぎり(は) ことには では とすると/すれば/したら ようものなら
 ようことなら ものなら                       
D2-2確定を示す
 ては とすると とすれば としたら てみると てみれば てみたら  
D2-3因果関係を示す                         
 からには からは いじょう(は) うえは かぎり(は) だけに だけあって
 ばかりに もので ものだから ものを ため(に) おかげで せいか 
  にしたがい にしたがって につれ(て)               
D3逆接条件
D3-1仮定を示す 
 までも ところが としても にしても にしたって にしろ にせよ
 ようが ようと
D3-2確定を示す
 からといって とはいえ/いって(も) といって(も) とはいうものの
 とはいいながら/いいじょう ところで ところを としても にしても
 にしたって/しろ/せよ にかかわらず にもかかわらず くせに/して
 ものの ものを にしては わりに わりあいに            
D3-3対比を示す                            
 のにたいし(て) どころか かわり(に) かとおもうと かとおもえば
 かとすれば とどうじに                       
D4平接関係−反復・並立・添加
 ては まま(で) なり(で) うえ(に) ばかりか どころか         
E並立助詞の働きをするもの 
E-1 例示の対象を示す
 といい〜といい といわず〜といわず にしろ〜にしろ にせよ〜にせよ 
 にしても〜にしても につけ〜につけ                 
E-2 仮想の対比を示す
 ようが〜ようが ようと〜ようと ようが〜まいが ようが〜まいと
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